環境とデザイン・後編――捨てるではなく、再生する。ここにパッケージの価値がある
毎回、パッケージデザインにかかわる「ぱっけーじん」にご登場いただき、さまざまなテーマについて語っていただく特集企画。第4回は、ソニーグループ株式会社の廣瀬賢一さんにインタビュー! 1993年の入社以来、環境に配慮したパッケージについて試行錯誤を重ね、ついに環境に配慮した紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」を開発した廣瀬さん。後編では、廣瀬さんのパッケージデザインに対する考えや未来への思いを紹介します!
プロフィール
廣瀬 賢一(ひろせ・けんいち)さん
ソニーグループ株式会社
クリエイティブセンター クリエイティブ
プロダクショングループ
Value Development チーム
1993年入社。京都府出身。子どもの頃から自然と戯れ、ミジンコからカジキまでさまざまな生物を採取して楽しむ。高校時代は天文部、写真部、美術部に所属。ソニーに入社した理由は、「大好きなソニーのカセットテープをデザインしてみたい」と思ったから。
ソニーグループ株式会社
30年のデザイナー人生をかけて、廣瀬さんが見出した「答え」とは?
―― 廣瀬さんがソニーに入社したのが1993年なので、実に30年以上に渡ってパッケージデザインに携わってきたんですね。
振り返ってみると長いですね。
―― でも、長く続けてきたからこそ、今の廣瀬さんがあるように思います。特にオリジナルブレンドマテリアルは、社外の賞をたくさん受賞されていますよね。
ありがとうございます。実は、オリジナルブレンドマテリアルの開発プロジェクトを立ち上げた頃から、社内では賛否両論だったんですよ。オリジナルブレンドマテリアルを使ったパッケージの商品が初めて発売された後も、議論が続いていました。
それが、国内外でたくさんの賞をいただき、社外からの客観的な評価を得られたことで、社内の評価が少しずつ前向きなものに変わっていきました。
―― そうだったんですか? 意外です……。
とはいえ、ソニーにはチャレンジを受け入れてくれる風土があります。私自身、数多くの提案を会社が受け入れてくれたからこそ、トライアンドエラーを幾度となく繰り返して来られたのだと思います。
これまで世の中になかったものを作ろうとすれば、反対する人が出てくるものです。最初は多くの人に反対されるくらいのものでなければアイデアとしての新規性は無いと私は考えています。
―― 失敗を恐れずチャレンジを続けることが大切なんですね。
新人時代、秋葉原の横断歩道で捨てられたパッケージを見たあの日から「パッケージだからこそできることってなんだろう」と考えてきました。その答えの一つが、「環境」にあると感じています。捨てるのではなく、再生する。リサイクルを、人々にとって当たり前の行動にする。長い道のりになるとは思いますが、この目標をかなえていきたいですね。
自分が「創る」ことで共感を呼び、たくさんの人を巻き込む流れが生まれる
―― 「環境」をテーマに、これから取り組んでみたいことはありますか?
これから先、どのような取り組みを進めていくにしても、パッケージデザイナーとして「パッケージという媒体を用いて、社会課題を解決していくこと」を軸にしていきたいですね。そのためには、いろいろな人を巻き込める大きな流れのきっかけをつくることができたらと願っています。
―― 廣瀬さんは、パッケージデザイナーという枠を超えた活躍をされていますね。
市場回収PET素材もオリジナルブレンドマテリアルも、「環境に配慮した素材」についてとことん考え、ソニーならではのコンセプトに創り上げていきました。パッケージデザイナーと聞いて多くの方が「パッケージをデザインする仕事」とイメージされるかもしれませんが、自分の考えや想いをブレずに貫くためには、原材料が育つ環境といった最上流からお客様がリサイクルした後の最下流まで、その工程すべてにパッケージデザイナーが関わる必要があるのだと思っています。
―― 「デザインの領域はここまで」と制限するのではなく、廣瀬さんのように、思いを表現するためにいろいろな工程に関わっていくデザイナーがもっと増えるといいですね。
そうですね。特に若いデザイナーには、「立ち位置を変えて考えてみよう」と伝えたいですね。立ち位置を変えると、まったく違う風景が見えてくるから。その違う景色を受け止め、自分に何ができるか考えてほしい。もしかしたら、それが社会課題の解決に役立ったり、社会をより良い方向に変えていくかもしれません。そして、そのためには、今までにない新しい取り組みが必要かもしれません。
もちろん、新たな取り組みを行うには、勇気が必要でしょう。それでも、自分の取り組みが社会により良い変化をもたらすのだとしたら、これほどやりがいのある仕事はないと思います。若いデザイナーの皆さんには、ぜひパッケージデザインという枠にとどまらず、チャレンジを重ねてほしいですね。
―― 貴重なお話をありがとうございました。廣瀬さんはオリジナルブレンドマテリアルの開発を通じて、「捨てられる運命」にあったパッケージを、「再生するパッケージ」へと変えました。この取り組みが世界中の人々に浸透するまで、廣瀬さんはどんなチャレンジを続けていくのでしょうか。廣瀬さんとソニーのこれからの取り組みに注目したいと思います。
前編から読む:環境とパッケージ・前編――パッケージと環境は、切っても切り離せない関係!?
展示会の什器から名刺まで、拡がる活用
多様な表現ができるオリジナルブレンドマテリアルの特性を生かして、什器やカーテンなど展示会ブース全体を構成。このほか、社員の名刺や封筒など、さまざまな領域で活用されています(廣瀬さん)。