料理シズルの撮影
篠田 大輔
味の素株式会社
マーケティングデザインセンター
コミュニケーションデザイン部
クリエイティブグループ
初めまして、味の素株式会社でパッケージや各種広告の制作を行う、コミュニケーション開発を担当している、篠田と申します。食品のパッケージデザインには欠かせない、「料理シズルの撮影」について、食品メーカーでデザインを担うものとして考えていることや、気を付けていることをお話できたらと思います。
おいしそうなシズルとは ~メニューステージにあわせた表現~
だと思います。やっぱり、パッケージを見た瞬間に、「これが食べたい!」って思ってもらいたいですもんね。しかし、この「おいしそう」を表現するのがすごく難しい。
そもそもこの「おいしそう」って、なんでしょうか?
それはきっと、人が過去にどこかで体験した、「おいしかった」を想起させられるシズルが描けているかどうかだと思います。具体的にどうするのか?それは撮影するメニューに合わせて、描き方を変えましょうという事になります。どういうことかというと、そのメニューが生活者の皆さまにどれくらい浸透・理解されているかで変える必要があるということです。(≒ブランドステージに合わせるともいえるかもしれません。)
Cook Do®の発売当初のパッケージと今のパッケージをご覧ください。
○左が発売当初、右が現在のパッケージ
シズルの描き方が全く違うと思います。Cook Do®の発売当初は中華料理というものが、家庭で食べられることはほとんどなく、回鍋肉や青椒肉絲というメニューは所謂、高級中華飯店でしか食べられませんでした。なので、その中華飯店のイメージが頭に思い浮かぶよう、中華飯店のテーブルにメニューが提供されたイメージでスタイリングを行い、撮影をしています。生活者の頭の中に、「あの中華飯店で食べたことのある、あのメニュー」を思い出させるわけです。それが「おいしい」に繋がる設計です。
しかし、中華料理が家庭で一般的に食べられるようになった今、同じことをやる必要があるでしょうか?この2つを見比べていただいても、今のパッケージに入っているシズルの方が、「おいしそう」に感じられると思います。(もちろん写真の解像度の違いということもありますが。)つまり、もう十分にメニューの理解が進んでいる中では、より本能的に、食べる直前のようなスタイリングでシズルを見せてあげた方が「おいしそう」に見える訳です。
単純に「おいしそう」に撮ろうとするのではなく、撮るメニューが世の中的にどれくらい浸透・理解されているかに合わせて、「おいしそう」が想起されやすいスタイリングを目指していただければと思います。
キレイなシズルがおいしいの?
シズル撮影をしていると、こんなことに陥ることはないでしょうか?
「使っている素材が見えるようにキレイに整えたけど、なんかおいしそうじゃない。」
それ、いじり過ぎ病かもしれません。
「あーしたい」、「こーしたい」と指示をだして調整しているうちに、素材がヘタって、シズル全体が元気なくなってしまう。それが「おいしそう」を阻害する要因です。
(日頃一緒にやっているフードスタイリストさんに「なに偉そうに言ってるの」と言われそうですが、自分もよくやります。)
撮るメニューにもよりますが、「勢い」がおいしさに繋がることがあります。
特に中華料理などは勢いがあることで、よりおいしさを感じるメニューだったりするのです。なので、生活者におけるメニューステージということに加え、そのメニュー本来が持つ性質といったものも合わせて考えられると「おいしそう」に近づけるのではないかと思います。(そもそも素材によってヘタりやすい等もありますので、そこは経験を積んでいただきつつ、TRY&ERRORをしていっていただければと。)
最近では真俯瞰でのシズル写真も増えてきました。おしゃれだし、かわいいですよね。
「おいしそう」と言われればそれも間違いじゃないと思います。でも、本能的に食べたくなるような「おいしそう」かどうかと言われれば、違うのではないかと思います。人は食事をするときに、真俯瞰から食べ物を見ることはほとんどなく、斜俯瞰で見ています。メニューにおける素材の立体感や、量感などを感じられたときに、よりグッとくる。そう、我々は考えていますので、弊社のシズルはほぼ真俯瞰のシズル写真を採用した商品がないです。
(真俯瞰がダメと言う訳でありません、狙いがあれば真俯瞰もありだと思います。あくまで一意見として捉えていただければと。)
さて、長々と話をしてきてしまいましが、まとめに入ろうと思います。
シズル表現はこれが正解!という答えはありません。撮影をしようとしているメニューや、作ろうとしているデザインに合わせて、なんとなく「おいしそう」を目指して撮影をするのではなく、シズルを担う皆さまが「こだわり」を持つことが大事であるということです。
そして、もう一つ大事な事が、一緒に撮影を行う、カメラマンさんや、フードコーディネーターさんとイメージをきちんと共有することです。このイメージ共有がきちんと出来ているか、否かで、最終成果物の質は全く、変わってきます。意識してみていただければと思います。
いかがでしたでしょうか?読む前よりもなんとなくでも、「おいしそう」なシズル表現が出来そうな気がしてきましたでしょうか?少しでもご助力できたのであれば、幸いです。
ぜひ、皆様なりの「おいしそう」を作っていっていただければと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。