パッケージの内側外側・中編〜外側もインキだけではない〜
素材メーカー、artience。前編ではアサヒビール生ジョッキ缶のお話を、缶の内面塗装部門の夏本さんに伺いました。中編では、インキ部門、リサイクル素材部門の宮崎さんと石井さんに、それぞれのお仕事の領域の広さをお聞きします。
プロフィール
宮崎 琢実(みやざき・たくみ)さん
artienceグループ 東洋インキ株式会社
マーケティング本部 事業企画部 1課 課長
プロフィール
石井 裕敬(いしい・やすあき)さん
artienceグループ 東洋インキ株式会社
サスティナブルパッケージング部 マーケティンググループ
多岐にわたるartienceの事業領域
――前編では「みんなに知られていなかった“缶の内側”のお話」を聞かせていただきました。artience グループは他にはどんなことをしていますか?
宮崎 これを読む方はパッケージにご興味があると思うので、その視点からご説明しますと、私たちは紙や布、ペットボトルに巻いてあるフィルムなどに印刷をするインキ、そして「フィルム同士を貼り合せるラミネート接着剤を開発する技術」を持っています。
印刷のインキって、色の素である顔料や添加剤を樹脂に混ぜてできているものなのですが、樹脂も「何に印刷するのか」によって設定や特徴を持たせなければいけないので「樹脂を設計、コントロールする技術」が必要になります。さらに印刷するときに均一になるように、「樹脂の中に顔料や添加剤をキレイに分散させる技術」など、実は「普通に印刷できる」ためにはその裏側に多くの技術が隠れているんです。
――HPでは「サラサラ」や「キラキラ」の印刷物についても触れていますね。
宮崎 特別な印刷物―――私たちは「意匠性」と言ってますが、表面がざらざらしているとか、金・銀・パールとか、様々な特徴を持った素材などを均一に混ぜてあげてインキ化するのも強みです。お菓子のパッケージを一例にあげると、用途によって条件が求められます。例えば、「光が入らないようにして、酸素を遮って、あと中身が絶対に出ないようにしてほしい、でも手で開けやすいように」など。そんないくつもの機能を持たせるために、さまざまなフィルムを何層にも貼り合わせるんです。「ラミネート接着剤」という言葉がありますが、フィルム同士を貼り合わせるのを「ラミネートする」という言い方をするんですけど、接着剤にもたくさんの種類があって、それも弊社で扱っています。
でも、フィルムってプラスチックなので、昨今はあまり喜ばれない。最近は「そういうことを紙でやってほしい、フィルムの厚みや貼り合せるフィルムの層を減らしてほしい」というのはニーズとして増えていますし、常に環境のことは意識しています。
――なるほど、今は環境のことは常に意識しないといけない時代ですね。
ちなみに、本日お持ちいただいたそのパッケージはなんですか?
石井 これは「モノマテリアル」でできたパウチです。こういうパウチって、ナイロンやポリエチレンなどで作られていて、ナイロンもポリエチレンも同じ石油から作られるプラスチックなんですが、リサイクルの観点では別物なんです。別々のプラを混ぜるとリサイクルの妨げになるので、これは“ポリエチレンだけ”でできていてリサイクルしやすい素材になっています。だからモノ=1つの、マテリアル=素材と呼ばれています。
ちなみに、このようなパッケージは、プラスチックのフィルムだけではなく、インキやコーティング剤、接着剤などが積層されて作られています。そのインキやコーティング剤、接着剤などの材料もartienceグループが作っています。
――身近なパウチがそんな複雑な構造とは知りませんでした!
石井 元々パッケージって、異素材のプラスチックのいいとこ取りで特性を出しているんですが、それを同じにしてしまうと、フィルムから袋にする時に必要になる「耐熱性」や中身の鮮度を保つための「バリア性」などが下がってしまうんです。うちでは、それを補うための「耐熱性やバリア性のあるコーティング剤」を作っています。
ちょっと見ただけではわかりませんが、「リサイクルしやすい素材」に向けて一歩一歩動いています。こちらはモノマテリアルのもう一歩先の取り組みで、「インキを剥がす技術」です。
――どういうことですか?
石井 インキが残ったものをリサイクルしようとすると、このようにリサイクルの材料(ペレット)に色がついてしまい用途が限られてしまうんです。そこで、うちは「インキを剥がす技術」を開発しました。インキを除去することで再利用しやすいペレットにできるんです。
――カラフルなプラゴミが透明に……?どうやったらそんなことができるんですか?
石井 プラスチックとインキの間に「リサイクル用のコーティング剤」を塗っているんです。
またフィルムとフィルムを貼り合わせている接着剤も「リサイクル用の接着剤」に変えています。そのコーティング剤や接着剤は、専用の液の中でかき混ぜると溶ける特性を持っていて、フィルムとインキやフィルム同士を分離させることができるんです。「剥離リサイクル技術」と呼びますが、この技術を使ったライオンさんの【ルックプラス バスタブクレンジング クリアシトラスの香り つめかえ用大サイズのパウチ】が数量限定で販売されました。
素材メーカーとして、限りある資源の消費スピードを緩やかに、今ある資源でどうにかしよう、と。
>>>詳しくはこちら(東洋インキ株式会社 事業・製品 ニュースリリースより)
ちなみに今回の「剥離リサイクル技術」が使われたパウチには裏面に黄色いラインの目印があるんですけど、自分で薬局に行って並んでいるのをみると、やっぱり嬉しかったです。
――前編の夏本さんもですが「わかりやすい仕事」に特に喜びを感じるのは“黒子的な技術を持つartience”ならではのあるあるかもしれないですね。
石井 そうですね。基本的にうちの仕事は表から見えないなので。どの方も、相当言語化がうまい人じゃないとうまく説明できないです。だから、やった仕事が説明しやすいと嬉しいです。
宮崎 プラゴミは注目度が高いですし、さまざまなメーカーさんとタッグを組めたらと私たちも考えていて、まさに今そのとっかかりのところです。いろんなリサイクルの方法を各社各様にしているのではリサイクルが推進されないので、今、仲間集めをしたりもしています。ご存知の通り、日本だけじゃなくてヨーロッパもアジアも、全世界的に脱プラの傾向ですし、リサイクルプラを何%使っているか、とか原料の出どころまで気にされる時代です。近い将来、このような技術でリサイクルの仕組みを根幹から変えて行けたらと思っています。