缶の内側の塗装技術に、印刷になくてはならない技術、そして環境に優しいパウチの印刷まで……本当に多岐に渡って世の中のパッケージを支えている、途方もない縁の下の力持ち、artience!後編では、そんなみなさんのご経歴や、「artienceあるある」をお聞きしました。

プロフィール

夏本 徹哉(なつもと・てつや)さん

artienceグループ トーヨーケム株式会社 
技術本部 塗装技術部 第2グループ グループリーダー

プロフィール

宮崎 琢実(みやざき・たくみ)さん

artienceグループ 東洋インキ株式会社 
マーケティング本部 事業企画部 1課 課長

 

プロフィール

石井 裕敬(いしい・やすあき)さん

artienceグループ 東洋インキ株式会社 
サスティナブルパッケージング部 マーケティンググループ

夏本 私は学生時代、細胞培養……中でも高分子(樹脂)を研究していまして、その繋がりで樹脂を扱う会社である当時の東洋インキ製造に入りました。缶とか粘着テープとか、研究の内容にも親近感を感じて。入社後はずっと缶の塗料の部門です。3年だけ基礎研究といって、材料とかいろんなものの基礎的なメカニズム解明に取り組んだりもしました。「粘着剤ってなんでくっつくんだろう?あったかいほど粘着は弱いけど、何が起きてるのかな?」とか、原因と結果を繋げる取り組みです。その3年間で視野が広がり、再び製缶部門に戻ったので、生ジョッキ缶の時にもその経験が活かせたと思っています。

石井 私は開発者ではなくマーケティングサイドですが、経歴としては入社6年目です。元々、パッケージって面白いなと思っていたんです。中身が良くてもパッケージがカッコ悪いと手に取ってもらえないですから。商品に及ぼす影響が大きいからこそ魅力的、と思って入社しました。ラミネート接着剤の部門に営業として5年間配属され、その後リサイクル案件を扱っています。

宮崎 私は九州出身なんですが、artienceの販売会社が近くにあったので「なんの会社かな?」と調べたら色について扱っていたり、貼り合わせる技術もあると知り、楽しそう!と。理系の大学の化学工学科にいたこともあり、オフセットインキの技術者として3年、2019年まで九州で技術営業をしていました。お客さんから何か要望があった際に「インキが悪いのか、機械が悪いのか、人の手が介してどこかに不具合が出たのか」を解決する役でした。印刷って、インキ、機械、人の使い方……どれも問題がない状態でないとダメなので、総合的な知識で診断することが求められました。
今はマーケティング部門で活動領域を広げています。環境が様変わりしていく中、石油資源は限られていますし、そこで何が貢献できるのか。5年後、10年後にどういう姿の日本にどういう価値が提供できるかについて、食品メーカーさん、製紙メーカーさん、フィルムメーカーさんと技術面で協力しています。

パッケージデザインの面では、デザイナーさんやメーカー様の思い入れを目の当たりにすることもあります。実際、パッケージ印刷で印刷立ち会いをすると「この色をもっとキレイに」「ここはくすませてほしい」とか、その場で皆さんの思いを形にする手直しをしたりもします。色を混ぜたり微調整したり……、最後は作り手のみなさんの思いと技術のせめぎあいになりますが、できるかぎり喜んでご満足いただける製品にしたいと思ってやっています。いつか読者の方とお仕事をする日も来るかもしれませんね。

―――幅広い事業領域だけに、経歴も様々なんですね!
そんな技術に関わる方が「普段どんなことを考えて世の中を見ているか」気になります。
皆さんの「素材メーカーあるある」を教えてください。

夏本 そうですね……、缶って、製缶会社さんのロゴが本当に小さく入っているんです。目の前にある缶は……「NNS」。これは日本ナショナル製罐さん。他にも、東洋製罐さん、アルテミラさん、とか同じ缶なのに製缶会社が違うな、とか。

あと、マットニスの缶といって、缶なのに光沢が抑えられた印刷手法があるんですが、缶ってラインナップやデザインの入れ替わりが激しいので、「この季節はマットな缶をいっぱい使っているなー」とか「これはフタが金色だなあ」とか、缶のわずかな違いや作りを見てしまいます。

―――缶で季節を感じるって、製缶に携わる方ならではですね。

石井 私は……これは日本ではあまりないんですけど、コンビニでパッケージをみているとちょっとフィルムが浮いてる時があるんです。特に海外で散見されます。接着剤が甘いとか、内容物で剥離してるとか、そういうのはクレームになることなんですけど、それをつい探しちゃいますね。で、見つけるとちょっとテンションが上がります。「よく見てたな、俺!」と。

―――それはもう、剥離パウチ警察ですね。宮崎さんは?

宮崎 私は長年パッケージ印刷周りにいたので、貼り合わせを見ちゃいますね。お菓子を食べたあとについ開いちゃいます。最近は某お菓子のフィルムパッケージを引っ張って「2種類くらいの構造なんだ……。どれくらい伸びるのかなあ」とか。
層に分けるときは、カッターでスーッと筋を入れて引っ張るんです。「この層はパリッとしてるな……」「これはナイロンだな」「これはブチッって切れるから違うな」とか。職業病で、なんでも剥いたり引っ張っちゃいます笑。
他の社員の着目点もそれぞれ違ってて、コーティングやインキ部門の方は拡大ルーペで印刷の網の形がこーだとかあーだとか、結構みんなやってますね笑。

―――パッケージデザイナーを志す方へ、一言お願いします!

宮崎 印刷って、使いやすいさや強度など機能性がないともちろんダメですが、それだけじゃないと思うんです。手にとってもらえて、ワクワクを与えられる。昨今の印刷の技術って日々進化しています。そういうことを意識してパッケージデザインを楽しんでいただけたらと思います。

石井 私はドイツに留学していたことがあるのですが、日本に戻ってきた際にコンビニのパッケージの鮮やかさに感動したんです。当時のドイツの印刷ってシンプルで色も薄かったので。パッケージから「買ってほしい!」って想いが伝わってくるって商品棚の面白さにもつながりますし、楽しい気持ちにさせてくれる。それもパッケージの魅力です。見た人をワクワクさせて、インパクトを与えられるものを作ってもらえたら、関わっている側としても嬉しいです。

夏本 これから仕事を選ぶ方は、ぜひ理系の方こそデザイナーをやってみてほしいと思います。見た目も醍醐味の一つですが、機能……理系の知識からデザインに落とし込めると、それはデザインを組み上げる武器になるはずと感じています。生ジョッキ缶の経験からは、内面塗料の技術が商品のコンセプトやデザインになり、それが商品ストーリーへのアプローチとなりました。今までにない「理系のデザイナー」が生まれてきてほしいなって思います。

これまで何度も見ているはずなのに、きちんと見えていなかったartienceグループの技術。
artienceグループが関わって支えている商品パッケージは、どれも身近なもののはずなのに「知らなかった!」と目から鱗の話の連続でした。昨今の素材の裏には私たちの快適な暮らしを支えている技術がたくさん使われていることを知り、技術の視点からパッケージを考える貴重な機会となりました。身近な商品に潜む楽しいお話を、本当にありがとうございました!

取材・文:三文字 祥子 

撮影:伊藤 隆将(Bluecat Studio)

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