ロッテ×P.K.G.Tokyo ブランドを育てていくために必要なこと *前編
私たちの生活の周りでは、毎年数多くの新商品が生まれています。その新商品がブランドとして定番化され、長く愛される存在となるには、その過程でどのような努力がなされているのか。「ロッテ プレミアムガーナ」のブランドの開発と成長に関わってきた株式会社ロッテの担当者とP.K.G.Tokyoの柚山さんを交えてのインタビュー対談です。
取材・文:大島 有貴
撮影:唐 瑞鸿(plana inc.)
「ロッテ プレミアムガーナ」とは
今年、60周年を迎えるロッテガーナブランド初のサブブランド。「一日の終わりに、ご褒美時間。」をコンセプトに、高級感や特別感を感じる商品だ。2021年10月に発売し、商品の美味しさはもちろんのこと、洗練されたパッケージデザインにも注目が集まっている。
cl. 株式会社ロッテ
cd. 石井美希(株式会社ロッテ)
ad. 柚山哲平(P.K.G.Tokyo株式会社)
d. 白井絢奈(P.K.G.Tokyo株式会社)
(左)株式会社ロッテ マーケティング本部 ブランド戦略部 ガーナブランド課 山口 洸也さん
(中央)株式会社ロッテ マーケティング本部 情報クリエイティブ部 デザイン企画課 石井 美希さん
(右)P.K.G.Tokyo CCO(Chief Creative Officer)柚山 哲平さん
今まで培ってきた「安心感」と、生活者のニーズを満たした「プレミアムガーナ」
―― 「ロッテ プレミアムガーナ」(以下:プレミアムガーナ)発売から4年目を迎えるとのことですが、ブランド立ち上げの経緯を教えていただけますでしょうか。
山口:ガーナミルクチョコレート(以下:ガーナ)は1964年に誕生した弊社チョコレート製品の中で第一号の商品です。ミルクチョコレート発祥の地、スイスの技術者を日本に呼び、高品質のチョコレートを完成させました。そのガーナが、今年60周年を迎えます。産地であるガーナの方々のカカオへの情熱と、消費者へ美味しいチョコレートを届けたいという弊社の熱い想いを重ねて「ガーナ」という商品名にしました。その想いはパッケージにも反映されており、情熱を赤色のパッケージで表現しております。当時、チョコレート商品に社名を入れることや、茶色をパッケージに使うことが通例でした。そんな中、品質へのこだわりが伝わる商品名と赤色のパッケージが、大変注目を集めたとのことです。
今回お話する「プレミアムガーナ」は、2021年10月に発売することになるのですが、その1年前頃から様々な検討、調査を行っておりました。当時はコロナ禍で、生活者にストレスが多い生活環境がある状況です。実際に調査を行ったところ、ご褒美・特別感へのニーズの高まりに加え、買い物に失敗をしたくない、そして食品としての安心感がニーズとしてあがりました。そこで、長い間ご支持いただいてきたガーナが安心感を担保しながらも、高級感を兼ね備えた「プレミアムガーナ」の開発が進んでいくことになりました。ガーナとして、サブブランドを作ることは初めての試みでした。その時はまだ「プレミアムガーナ」というネーミングも決まっていない状況でしたが、以前からデザイン開発でお世話になっていたP.K.G.Tokyo(以下:P.K.G.)さんに早い段階で、ご相談させていただいた経緯があります。
柚山:そうですね。商品の企画当初から関わらせていただきました。ネーミング案をP.K.G.からも出させていただいた上で、調査を行い、その結果を元にロッテさんと議論を尽くし、最終的には「プレミアムガーナ」という万人にとってわかりやすい名前に決定しました。実は、プレミアムガーナには、その前身と言えるガーナのプレミアムラインの商品が存在しました。その中でも、弊社が携わらせていただいた「ガーナ マリアージュ <ストロベリー>/<ブルーベリー>」(2020年4月発売)でのシンボリックな表現が、大胆で高級感があると評価され、翌年の「プレミアムガーナ」誕生へと繋がっていきました。
「一日の終わりに、ご褒美時間。」という価値を伝えつづけ、育てるために
―― 発売後、売上を含めたブランドの成長はどのようなものでしょうか。
山口:発売前から、社内の期待値はとても高かったです。高級感を感じながらも、ガーナブランドであることがちゃんとわかり、安心感と美味しさが担保されていることがデザインに反映されていました。一つ懸念点として上がっていたのが、ガーナのブランドカラーである「赤」が使われていなかったことでした。これまで大事にしてきたブランドカラーである赤色を手放して、果たしてガーナと思ってもらえるのかと。ですが、実際に発売に至るとその懸念はすぐに払拭されました。結果的には2021年10月に発売したプレミアムガーナ5品は、前年品と比較して約2倍の伸び率でした。今年で4年目を迎えるブランドですが、発売当時から販売数を年々増加させ順調に成長しています。さらにラインナップの充実やコラボレーション展開などを経て、今や誰もが知るブランドに成長しました。
柚山:ブランドが着実に育ってきているのは、とても嬉しいことです。当時のデザインの裏話ですが、立ち上げ当初は「プレミアムガーナ」という名前をしっかり覚えてもらうために、パッケージデザイン上でロゴを大きくわかりやすく配置していました。その後、発売から時間が経ち、ブランドの認知度が上がっていくにつれて、ロゴサイズは少しずつ小さくしていく傾向にあります。その時々で、ブランドの受け取られ方は変わっていくので、世間からの認知度に合わせてデザインも変えていく必要があるのです。石井さんとは、そういったことを始めとしてとにかく議論を尽くしてきました。
石井:そうですね。近年、コラボ商品も増えていく中で、毎回ロゴの大きさをはじめとした見せ方について柚山さんと時間を割いて、とことん議論をしています。私はブランドの立ち上げ2年目からデザインを担当していますが、2年目はどのブランドも苦戦しがちです。そのタイミングで前任からバトンタッチされたので、個人的にも悩みながら進んできた経緯があります。特に、コンセプトである「一日の終わりに、ご褒美時間。」がどのようなお客様にもデザインを通して伝わるよう模索してきました。例えば、「ご褒美時間を過ごしたい」と思われているお客様にとって、過剰な情報は必要ではないのではないかと考えました。そこで、文字情報を精査し、美味しさがダイレクトに伝わるシズルの表現にこれまで以上にこだわることで、シンプルでリッチな気分が味わえる堂々としたデザインが完成いたしました。
柚山:やはり、クライアント側の意向として、パッケージの中にたくさん文字情報を入れたいと思うのは普通だと思います。それは商品に対しての作り手の熱意ですので、至極当然だと思うのです。しかし、ややもするとセールス的で、一方的だと取られてしまう可能性があります。消費者の気持ちを慮り、情報をコントロールする。その両者にとっての通訳のような役割がデザインだと思います。石井さんはロッテさんの中にいながらも、作り手の熱意と消費者の間に立ち、社内に真摯に働きかけてくれたからこそ、今のシンプルで高級感のあるデザインが実現したと思うのです。関わるメンバーが等しくブランドへのリテラシーを高く保ち、周りにも波及させる行動をしてきたからこそ、ブランドがうまく育ってきているのだと感じています。
対話し、議論を尽くすことのできる関係性を築く重要性
―― なぜ、メンバーが等しくブランドに対するリテラシーを高く持てたとお考えですか。
柚山:うまくいった場合も、そうでない場合も「なぜそうなったのだろう」というロジカルな議論ができ、お互いの感情論で仕事をしないことだと思います。例えば、写真のレイアウトやカラーリングなど、一体何が起因して反応が良かったかを分析しながら、商品の売れ行きに一喜一憂することなく、次なる商品の議論を行ってきました。
石井:P.K.G.さんとの議論は、いつも皆さんが忖度なしの本音で話してくださります。それゆえに、こちらも本音で対峙しなければ失礼だなと感じるところがあり、そのような関係性で議論し合えることがとても心地よいです。社内のデザイン担当が1人なので、P.K.G.さんがもはや社内の人間なんじゃないかという感覚がありますね。
もちろん、意見がぶつかり合うこともあるのですが、そういったことがあるからこそいいアウトプットができていると思います。腹を割って話せる関係が、成功要因の一つだと感じています。
柚山:弊社のパーパスには「対話」という言葉が入っています。問題の本質について時間をかけて一緒に話していくということです。また、私個人のデザインへの考え方は「話せばわかる」というスタイル。基本的にクライアントの「こうしたい」というオーダーの裏には実は社内の事情などによる「こうしなければならない」という本音が隠れていると考えています。その事情を相談していただければ、「じゃあこのような別の方法がありますよ」とこちらも抜本的な提案ができるのです。ですが、その事情がわからないと代案も出せない。本音を喋っていただくことで、状況を理解した上で最善の道を一緒に探せるのです。ロッテさんとは日頃から本音で議論させていただいているので、本当にいい関係が築けたと思っています。