「ロッテ プレミアムガーナ」がブランドとして立ち上がり、4年目を迎えます。ブランドをどのように育ててきたかを、株式会社ロッテの担当者とP.K.G.Tokyoの柚山さんが振り返り、成功した要因の分析や課題をどのように解決してきたかを話します。

前編はこちら。

取材・文:大島 有貴
撮影:唐 瑞鸿(plana inc.)

プレミアムガーナの本質的な価値を、社内に伝播していくためのコミュニケーション

―― 前編では主に、ブランド構築のプロセスについてお伺いしましたが、販売営業の部署にはどのようにブランドが受け取られていたのでしょうか。

山口:大前提として、売上利益を上げるということは、とても大切なことですが、「ロッテ プレミアムガーナ」(以下:プレミアムガーナ)の本質的な価値は消費者に「ご褒美時間」を提供することだと考えています。それゆえ、営業部署には、ストレスフルな今の社会だからこそ、たくさんの人へ、このブランドの価値を伝えていきましょうとコミュニケーションをとりました。社内で一気通貫した認識を持つ必要を感じていたからです。
弊社では年2回、全国の社内の営業担当向けに今後のブランド戦略や新商品についても勉強会を行います。私がブランド担当として、ブランド展開を通して届けたい価値を直接伝える機会です。今年の春夏展開の際には、P.K.G.Tokyo(以下、P.K.G.)さんにご協力いただき、デザインに関する意図や思いを文章にまとめていただき、資料として営業担当に共有しました。勉強会で、デザインの背景を共有できたのは初めての試みでしたので、良い機会だったと思います。私は以前、営業担当でしたので、営業の視点に立った時にブランドの裏側のストーリーを知れることは、お客様と話せる話も増えますし、個人個人の士気も上がるのではないかと考えました。

石井:勉強会に参加した営業担当から私に、デザインの意図が理解できてとても良かったという声が届いております。商品展開として何種類もの商品を担当していても、これまではデザインの詳細を深掘りして説明する機会はありませんでした。ですが、勉強会を通して、私たちが最終的なデザインにたどり着くまでにブラッシュアップしたプロセスを、たくさんの不採用となった別案も含めて山口が共有してくれたのです。これをきっかけに完成したデザインの裏側にある意図を理解してもらうことで、私たちの熱量が営業担当に伝播し、「売りたい」という気持ちになってくれたと感じています。本当に理想的な形で営業へとバトンパスができていると思いました。

柚山:人が「頑張ろう」と思うのは、自分のためというよりも、誰かであるためのことが多いですよね。ロッテさんの社内でのコミュニケーションが密になったことでブランドの通念が共有化されたと感じました。もともと営業の経験がある山口さんだからこそ、一種、通過儀礼的になってしまう勉強会という機会を最大限に活かされたのだと思いますね。

トーン&マナーは解釈の仕方によって、変化への許容が生まれる

―― これからも「プレミアムガーナ」がブランドとして続いていくわけですが、どのようなことが課題だと感じていますか。

柚山:やはりデザイン面において、マンネリ化してしまう可能性があるので、石井さんと頻繁に議論を重ねています。具体的には、ブランドとして変えて良い部分と、そうでない部分がどこであるのかの線引きを決めることに時間を割くことが多いです。トーン&マナーという言葉はブランドを議論する時によく使われる言葉だと思うのですが、意外と解釈が難しいと思っています。この言葉を「ルール」と解釈してしまうと、絶対に守らなければいけない決まり事になってしまいます。本来はトーンもマナーもブランドの現在位置によって変化していくもの。人が成長するにつれて大事にしているものが変わるように、ブランドにもその時に大事にするべきものがあります。ただ、それはブランドに対しての理解と、これまでの道のりを知っていることが前提。守らないといけないものと、変えていいものを線引きすることができるリテラシーがあってこそだと思います。私たちは、そのリテラシーがあるからこそ、これからも変化をしていけると思っています。

石井:実は、デザインでこれだけ高級感や王道感を担保しているにも関わらず、「プレミアムガーナ」におけるデザインのフォーマットと呼べるものがありません。それゆえ、関わる誰もがブランドへの認識を同じ視座で持つことが重要です。それができているので、変化を受け入れられるのだと思います。実は、今年4月に発売した春夏展開のデザインはこれまでのトンマナから大胆な変更をいたしました。これまで通り重厚感のあるものを踏襲したデザインも検証をいたしましたが、4年目を迎えるということもあり、新しい挑戦的なデザインを選びました。また、チョコレート市場では、春夏はどうしても売れ行きが下がる傾向があります。そこで山口がお客様への調査を行い、打開するための糸口として見つけてくれた一つの要素が「カラーリング」でした。そこから、ブランドのイメージである高級感をどう担保するか等また議論を尽くし、今回の春夏展開のパッケージデザインが完成いたしました。ブランドとしては、かなり大きな変化でしたので個人的には発売するまで、お客様に受け入れていただけるか心配でした。ですが、たくさんの検証、議論を重ねた甲斐もあり、春夏展開の売れ行きは好調で、嬉しい限りです。

柚山:実は、だいぶ前から今回のような春らしいペールトーンは、チョコレートのパッケージとして相応しいのかという検証を続けていたのです。今回、ブランドの認知度やこれまでの実績から考えて、4年目の今ならふさわしい色だと判断してチャレンジしました。仮にこのデザインが2年目に出ていたとしたら同じ結果にはならなかったかもしれないですね。ロッテさんとのお仕事は毎回、石井さんから何かしらの課題をいただくようにしています。今回はこの課題を解決したいので一緒に考えてくださいと。そういう課題に一緒に向き合うからこそ、目線を合わせながら、変化を許容していけるのだと思います。

2024年春夏展開のパッケージ。山口さんの調査によって、プレミアムガーナは毎回季節限定で今しか買えない商品にも関わらず、通年商品に見えてしまっているという課題があがった。そのため「季節限定」を強調するようなカラーリングや撮影方法、コピーライティングなどを議論しデザインが決定している。

さらにブランドを羽ばたかせるために必要なこと

―― これから「プレミアムガーナ」をどのようなブランドにしてきたいとお考えですか。

柚山:私個人としては「プレミアムガーナ」をグローバルブランドにしていきたいと思っているのですが、どのようにお考えですか?韓国を中心としたアジア圏ではすでに販売していますが、欧米に挑戦するのも面白いのではないかと思うのです。そのためには何が足りないのかということを考えていきたいですね。
もちろん、まずはガーナミルクチョコレートを世界的に広めてから次にプレミアムガーナを、という順序がセオリーだとは思うのですが、いっそ「プレミアムガーナ」から世界の人に知ってもらうというのも良いのではないかと考えています。ただ、チョコレートの本場に「プレミアムガーナ」が入り込んでいくハードルの高さはあるので、例えば、抹茶フレーバーなど「日本らしさ」を盛り込んだ商品から認知を広めていくなど何かしらの工夫が必要だとは思います。

山口:いいですね。ヨーロッパは、高級チョコレートが普通にスーパーに並んでいる文化があるので、挑戦できる土壌はあるのではないかと思います。また、ヨーロッパで認められた「プレミアムガーナ」として他の国に訴求していく形を作れるので、とてもいいと思います。ガーナのルーツはスイスなので、60年間、日本で育てたガーナをヨーロッパでまずは「プレミアムガーナ」で勝負させるということを検討しても良いかもしれません。

石井:楽しみですね。デザインに関しては、どんなにこのブランドが大きくなっても、考え方の軸は変わらないと思っています。今まで、このブランドと向き合ってきて私が学んだことは、メーカー目線でデザインを考えても上手くいかないということです。調査を通して、多くのお客様の声をいただけることもあり、消費者目線で考えるようになってから、デザインがはまった感覚があります。これから、海外進出を考えた際にも、私たちの「伝えたい」という強く純粋な想いだけでなく、客観的な視点で考え続けなければならないと考えております。P.K.G.さんが、常に伴走してくださるからこそ、その客観性が保てるのだと思います。これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。

柚山:パッケージデザインとは、消費者のためにデザインするものです。このお仕事ではロッテさんと共にブランドを通して消費者とも対話できていると感じています。自分たちでブランドを育ててきた実感があることが本当に素晴らしい。こちらこそ、これからもよろしくお願いいたします。