毎回、パッケージデザインにかかわる「ぱっけーじん」にご登場いただき、さまざまなテーマについて語っていただく特集企画。第5回は、サントリーデザインセンターの石浦弘幸さんにインタビュー! 後編では、デザイナーとして感じるやりがいや、若きデザイナーに向けたメッセージをお届けします!

プロフィール

石浦 弘幸(いしうら・ひろゆき)さん

サントリーホールディングス株式会社
デザインセンター シニアデザインディレクター
金沢美術工芸大学客員教授
多摩美術大学非常勤講師

1968年富山県生まれ。家具職人の家に生まれ、幼少の頃から工作に親しむ。金沢美術工芸大学でデザインを学び、サントリーに入社後は「BOSS」を皮切りに、さまざまな商品デザインを担当。現在は美大の講師を務めるなど、社内外でも広く活躍。

サントリーホールディングス株式会社

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「パッケージデザイン」ではなく「商品デザイン」という視点でデザインを考える。

――コンセプトを守りつつ、表現の可能性を拡げ続けてきた石浦さんの姿勢に「デザイナー魂」を感じました。石浦さんは、「パッケージデザインのやりがい」をどこに感じますか。

石浦 学生の頃から「老若男女さまざまな人が手に取る、生活に密着した商品をデザインできたら」という思いがあって。サントリー入社後も、その思いが仕事の原動力であり、やりがいにもなっています。特に飲料は生活の身近な場所にあって、いろいろな人の人生の傍らに溶け込んでいます。そこに、パッケージデザインの面白さがあるように思います。だから、自分がデザインした商品が店頭に並び、見ず知らずの人がどんな気持ちで飲んでくれるか想像するだけで、ワクワクします。

――パッケージに惹かれてBOSSを買う人も多いと思います。

石浦 実はサントリーには「パッケージデザイン」という概念はないんです。パッケージは商品を包むものではなく、商品そのもの。我々は「商品をつくる」という気持ちでデザインしているんですよ。

――「商品そのものをデザインする」という意識をもつことが大切なんですね。

石浦 人間に名前や顔があるように、商品にもネーミングやシンボルがあります。つまり、商品には「人格」があると思っています。特にBOSSはコンセプトからもわかるように、立ち上げ当初から「人格」を意識してきました。そのせいか今もBOSSが店頭に並んでいる姿を見ると、まるで「我が子」のように愛しく感じます。

自己表現としての「創造力」と、他者の気持ちに寄り添う「想像力」。

――最近の石浦さんについてもお聞きしたいです。「美大の講師を務めている」と聞いたのですが。

石浦 本業の傍ら、3年前から多摩美術大学でパッケージデザインクラスの講師を務めています。「自分がデザイナーとして経験してきたことを、どんな風に伝えていけるだろう」と考えながら、学生の皆さんと日々向き合っています。表向きは講師という教える立場ですが、実は、僕自身が学生達から学ぶことの方がむしろ多く、とても良い刺激になっています。以前よりも、パッケージを通してコミュニケーションデザインについて深く考えるようになったかもしれません。

――学生の皆さんと向き合って、どんな印象を抱きましたか。石浦さんが学生だった頃との違いを感じることもあるのでしょうか。

石浦 僕が学生だった頃は、先生から教えを乞うというより、勝手にのびのびとやっていたように思います。いかに「課題」に対して独自の解釈で裏切るか、みたいなことばかり考えていましたが、今の学生はいい意味で真面目で素直な子が多いように感じます。でも、型にはまらずに、もっともっと自分自身の表現を大切にしてほしいですね。そのためには、貪欲にいろんなことに興味を持って「自分が好きなことや夢中になれることは何か」を発見することが大事だと思います。そうした経験を通じて得た表現力は、きっと将来デザイナーとしての個性や強みになると思います。

――型にはまらず、のびのびとデザインする。大切なマインドですね。

石浦 そうした個性あふれる表現力を期待する一方で、大学の授業では、その表現が「誰のため、何のため」なのかという、コミュニケーションデザインの本質に向き合うことの大切さを特に伝えています。相手の気持ちに寄り添う「想像力」や、心を動かしたいという気持ち、つまり「愛」のあるデザインが大事だと。商品デザインやブランドづくりには、もちろん「差別化や個性」が必要ですが、それを受けとる側の「共感や憧れ」があってはじめて成立します。僕は、いいブランドには常に「驚き」と「愛」があると考えています。

――今後、BOSSはどんな展開を見せてくれるのでしょうか。最後に、石浦さんのお考えをお聞かせください!

石浦 これまでに数え切れないほどのBOSSを世に送り出し、同じく数多くの失敗も経験してきました。長きにわたってブランドが存続できたのは、失敗を次の成功につなげ、常に進化し続けてきたことの結果にすぎません。将来BOSSブランドがどのように進化していくのかは未知数ですが、今後もコンセプト「働く人の相棒」を核として、挑戦し続けることは確かです。ブランドとユーザーの絆をさらに強化し「驚き」と「愛」を届け続けたいと考えています。

――若き日の石浦さんが最初に描いたBOSSの世界観は、今日まで数多くの商品に展開され「働く人の相棒」としてさまざまなシーンで愛飲されています。ここまで長く人々に愛されているのは、石浦さんをはじめ、開発メンバーが本気で商品開発に挑み、本気でブランドの未来を築いてきたから。そんな感想を今回の取材を通じて感じました。近い将来、BOSSブランドがまた新たな可能性を切り拓いてくれることをイメージしながら、仕事の合間にBOSSを飲みたいと思います。

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発売以来、BOSSシリーズは500種類を超える!

缶からペットボトルへ、コーヒーから紅茶をはじめさまざまな飲料へ、国内から海外へ、商品のラインナップを拡げ、今では年間50種を超えるBOSSを開発しています。BOSSは常に進化を続けているので、デザインを担当してきた僕にも、その未来は想像すらつきません。唯一、変わらずに守り続けていくのは、「働く人の相棒」であり続けることです。