小ネタのパッケージep2. デザインする前に
白石 紗矢香
東洋製罐グループホールディングス
デザインセンター
私が所属する東洋製罐グループは、缶やペットボトル、ガラスびん、紙コップなど、色々な容器を専門に製造している会社です。
その中で、主にパッケージの印刷デザインの制作を担当しているのが、私、白石です。
今回は、パッケージデザインのルールについてお話ししたいと思います。
突然ですが、みなさんにとって「ジュース」とはどんな飲み物でしょうか?
先日、夫が子どもたちに飲み物を買おうとしたので「ジュースなら何でもいいよ」と伝えました。ですが、夫が買ったのは“炭酸飲料”。
ジュースと言ったのに、と違和感を覚えたのですが、ここに業界と一般的な認識に差があるな…と感じました。
そこで、今回のお話です。
パッケージには、中身の良さや機能などを手に取るみなさまにしっかりと伝えるためにデザインにルールが設けられています。
いくつかの例をご紹介します。
【コーヒー編】
種類豊富なコーヒーの飲み物ですが、中身に含まれるコーヒーやミルクの量によって、「コーヒー」なのか「コーヒー飲料」なのか「乳飲料」なのかが決まり、それによって適用されるルールが変わります。
↓よく見かけるコーヒー缶のパッケージですが…
〈使ってはいけない表現〉
○使用量よりもはるかに多いコーヒー豆をデザインに表示する。
○「本格派」「最高級」「ミルクがたっぷり」は禁止表示。
というルールがあります。
上のパッケージの間違い、気がつきますか??
答えはこちらです!
この商品は「コーヒー飲料」規格なので、使用している豆は多くても10gほど。コーヒー豆60〜70粒くらいです。なのに、もっとたくさんの豆を使用したコーヒーの味わいを期待させてしまう恐れがあります。
実際に1缶あたりに使用されている豆の量を正確に確認できないので、全面に豆の写真やイラストを使用するデザインは作らないようにしています。
続いて
【マッシュルーム編】
↑こちらは中が見えないタイプのマッシュルームのパウチ製品です。中身が見えないのでどんな状態のものなのか伝える必要がありますが、正しく伝えないと誤認されてしまいます。
どこが間違いか気がつきますか??
答えはこちらです。
写真を見て購入を決め、調理する時に「あれ?スライスじゃない!」となってしまうかもしれません。パッケージの写真は、具体的に中の商品をイメージさせるのにも必要なのです。
さらに、
覚えておくと便利な果汁飲料のパッケージのルールです。
【果汁飲料編】
果汁飲料は、パッケージを見ただけで本物の果汁がどのくらい入っているのか分かるようにデザインされています。
例えば、「ジュース」と書いてよいのは果汁100%のみ。
切った果物の絵や写真を使えるのも果汁100%のみ。
↓こちらは誤りを含むパッケージデザインです。
果汁が5%含まれる「果汁が入った清涼飲料水」ですが、どこが間違いか気がつきますか?
正解はこちらです。
〈使ってはいけない表現〉
○果汁5%なのに、「ジュース」の表記や、輪切りやしずくのついた写真を使用すること。
「ジュース」と書いて良いのは果汁100%のもののみ。
いかがでしょうか?
ルールを知っている私にとっては、
「ジュース」は果汁100%のものと決まっているのですが、
こういったルールは実際に手に取るみなさまにはあまり知られていないことかもしれません。(夫はコーヒーやお茶、水以外の「甘い飲み物」はジュースという認識なのだそうです。)
だからこそパッケージをみて誤解をされてしまうような、「より良く見せ過ぎる」「パッケージと中身が違っている」などの表現がないように気をつけなければいけないのです。
今回ご紹介したエラーパッケージを『容器文化ミュージアム』で展示したことがあったのですが、見学にきた小学生が「切った果物の絵や写真が載っていたら果汁100%だから、それを選びなさいとお母さんに言われている」と話していました。
それを聞いて、字が読めない子供や日本語がわからない人など、パッケージの文字以外から中身の情報を読み取ることがあるのだと改めて思いました。
イラストや写真も中身の情報を知る重要な要素です。
中身の情報がわかりやすく正しく伝わるように、かつ、みなさまに手に取ってもらえるように、ルールを守りつつステキなデザインになるよう心がけています。
そして子供たちには、「ママがジュースと言ったら、切った果物の絵とか写真のパッケージのもの(果汁100%のもの)だよ」と伝えています。
「小ネタのパッケージ ep3.」に続く