毎回、パッケージデザインにかかわる「ぱっけーじん」にご登場いただき、さまざまなテーマについて語っていただく特集企画。第4回は、ソニーグループ株式会社の廣瀬賢一さんにインタビュー! 入社1年目、「捨てられる運命にあるパッケージだからこそ、できることがある」と決意した廣瀬さんは、トライアンドエラーを繰り返した後、市場回収PET素材を使用したパッケージを開発します。しかし廣瀬さんの挑戦はその後も続きます。中編では、環境に配慮した紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」を開発したエピソードについてお聞きしました。

プロフィール

廣瀬 賢一(ひろせ・けんいち)さん

ソニーグループ株式会社
クリエイティブセンター クリエイティブ
プロダクショングループ
Value Development チーム

1993年入社。京都府出身。子どもの頃から自然と戯れ、ミジンコからカジキまでさまざまな生物を採取して楽しむ。高校時代は天文部、写真部、美術部に所属。ソニーに入社した理由は、「大好きなソニーのカセットテープをデザインしてみたい」と思ったから。

ソニーグループ株式会社

https://www.sony.com/ja/


市場回収PET素材の考えを踏襲し、オリジナルブレンドマテリアルの開発に乗り出す!

―― 廣瀬さんのお話を聞いていたら、「市場回収PET素材はとても完成度が高いのに、なぜ、紙素材のオリジナルブレンドマテリアルの開発に乗り出したんだろう」という疑問が湧いてきました。

市場回収PET素材は確かに優れた素材ですが、完璧ではありません。また、パッケージの流れとして脱プラスチックを考えた素材を検討する必要があると感じていました。そこで、市場回収PET素材で掲げた「再生素材・単一素材完結」のコンセプトを踏襲・進化させました。

―― コンセプトが進化した?

改めて環境に対する考えを整理したんです。ソニーはメーカーなので、商品の開発・製造が主な事業内容です。しかしソニーが「環境に配慮した素材を使用してパッケージを製造」しても、商品を購入したお客様が廃棄してしまったら、リサイクルの循環は生まれません。

―― 確かにそのとおりですね。

だから私たちは、お客様を巻き込んで、リサイクルの循環を作ろうと考えました。そのためには、環境に配慮した素材で、さまざまな形状に成形できることはもちろん、ソニーの環境に対する考えを素材に込めてお客様に伝えていくことが大切だと考えました。これが、オリジナルブレンドマテリアルの開発にあたって決めたことです。

あらゆる質感を表現する「多様性」と、人々の心に共感を呼び起こす「ストーリー性」

―― 環境に対する思いを伝えることで、お客様に「リサイクル」というアクションを起こしてもらう。すごくステキな取り組みですね。

ありがとうございます。その後、原材料の選定に入ったのですが、「どの素材にしたら、お客様の行動が変わるだろう」という視点で選びました。

―― オリジナルブレンドマテリアルは、竹とさとうきびの搾りかす、市場回収リサイクルペーパーの3つの素材をブレンドしたんですよね。

ソニーは世界中で商品を販売していますが、製造拠点の多くはアジアにあります。そこで、アジア周辺に素材の採集場所を求めました。例えば竹は、中国・貴州の3つの山から採集しています。一部の竹は野生のパンダが食すので、それ以外の竹を選んでいます。

―― それぞれの素材に「ストーリー」があるのですね。

「素材=環境を語る」ことであり、「どこの」「何を」「どのようにして」「こうなった」ということを「伝える」ことを重視しています。
竹は持続可能な伐採をしている地域から、さとうきびの搾りかすはタイのナコーンサワンにおいて砂糖の製造過程で生じた繊維、そして、市場回収リサイクルペーパーはオリジナルブレンドマテリアルを製造する工場の近くで回収したものを使用しています。そしてその情報を全世界に公開しています。

―― ここでふと思ったのですが、なぜ3つの素材をブレンドしているのですか?

3つの異なる素材をブレンドすることで、表現の可能性が拡がるからです。竹は長く堅めの質感があり、さとうきび繊維は逆に柔らかく、そして市場回収リサイクルペーパーは何度も再生されている可能性があり、繊維の長さがまちまちです。これらの配合比率を調整することで、薄い紙から厚い紙、立体成型など、あらゆる表現ができます。

―― すごい。グレーの色味が印象的ですが、ここにもこだわりがあるのですか?

オリジナルブレンドマテリアルのグレーの色は3つの素材の配合からできており、「環境に配慮した素材」であることを伝えるために、着色はしていません。ただし、季節によって微妙な違いがあるんです。なぜなら、市場回収リサイクルペーパーは新聞や雑誌を回収しているため、色が均一ではないからです。本来、工業製品に「ブレ」があってはいけないのですが、私たちは敢えて「色合いの微妙な変化」を許容しています。

―― たくさんの思いを込めて開発したことが伝わってきますね。その後、2021年にオリジナルブレンドマテリアルをパッケージに採用した最初の商品が発売されました。発売後の反響はとても大きく、数々の賞も受賞しています。環境を軸に置いた廣瀬さんの取り組みは、まだまだ続きます。後編では、廣瀬さんのパッケージデザインに対する考えや未来への思いを紹介します!

環境とデザイン・後編――捨てるではなく、再生する。ここにパッケージの価値がある――へ続く


ワイヤレスノイズキャンセリングステレオヘッドセット「WF-1000XM4」
2021年6月、オリジナルブレンドマテリアルを採用したワイヤレスノイズキャンセリングステレオヘッドセット「WF-1000XM4」を発売しました。最初の導入モデルだったので、オリジナルブレンドマテリアルの特徴を出すために、敢えていろいろなパーツを組み合わせてあります。世界包装機構主催の「WorldStar Awards2022」や「日本パッケージデザイン大賞2023」金賞をはじめ、数多くの賞をいただき、大きな手応えを感じました(廣瀬さん)。