大阪からクリエイティブを発信・前編-始まりは飲み会!?10年以上続く「パケクション」の歴史を紐解く
今回の「ぱっけーじん」は、関西在住のパッケージデザイナー集団「PAKECTION!(パケクション)」を主宰する三原美奈子さんです。パケクションはメンバー全員が日本パッケージデザイン協会会員。2008年の結成以来、趣向を凝らしたパッケージデザインの展覧会を継続的に開催し、好評を博してきました。
今回のインタビューでは、パケクションの誕生からここまで長く続いてきた理由、そして最新の展覧会情報までたっぷりとお聞きしました。前編では、結成からギャラリーでの展覧会を経て、自分たちでイベントを主催するまでに至った歴史を辿ります。
プロフィール
三原美奈子(みはら・みなこ)さん
京都精華大学美術学部デザイン学科VCD専攻卒業後、
デザイン事務所を経て2010年三原美奈子デザイン設立。
さまざまな包材に対応し、箱の設計・構造から、
コストとマーケティングを見据えたパッケージデザインを提案。
展覧会や講演、ワークショップも多数開催。
(公社)日本パッケージデザイン協会理事
結成のきっかけは飲み会だった!?
-まずは、パケクション結成のきっかけを教えてください。
30代の頃、同年代のパッケージデザイナーに声をかけて交流会を始めたのがきっかけです。
当時、パッケージデザイン協会のイベントや交流会に連れて行ってもらうたびに、ボス達は親しく話していたのですが、私のようなスタッフはポツンと一人で持て余していることが多かったんです。
同じようにポツンとしている他のデザイン事務所のスタッフさんを見かけても、なかなか話すきっかけがなくて。
そういった場所で親しく話せる知り合いが欲しいと思って、「まずは飲み会しませんか」と誘っていきました。
-飲み会から展覧会に発展したのはどういった経緯だったのでしょうか?
2008年くらいから月に1回飲み会をしていました。飲みながら、すごいと思うパッケージを持ってきて分解したり、印刷や設計の相談をしたり。飲み会だけでなく、工場見学に行ったり、Adobeのソフトの勉強会をしたこともありました。
私自身は自然発生的に「展覧会したいね」という雰囲気になっていったらいいなと思っていて、3年経った頃、それが実現したという流れです。
-三原さんは当初から「ゆくゆくは展覧会をしたい」と思われていたんですね。
そうですね。東京で鹿目尚志先生が若い人を集めて展覧会をしているというのを聞いていたので、関西でも何かできたら、という気持ちはありました。
-そして初めての展覧会が2011年の「生パッケージ展」。
カフェ併設の会場で、とても小さい展覧会でした。このときはまだ別のグループ名で、2回目の開催からパケクションに改名しました。
「生パッケージ展」
-パケクションという名前にはどういった意味が込められているのでしょうか?
「パッケージ」+「アクション」ですね。メンバーの山内理恵さんが案を出してくれて、すぐに皆が気に入りました。くしゃみの「ハクション」のような破裂音が楽しそうな感じがあっていいなと思って、ずっと使っています。
心斎橋のギャラリーから海外へ。飛躍のシーズン1
-生パッケージ展を経て、約1年後には2回目の展覧会「修正お願いします展」を開催されていますね。
次はどこかの企業とコラボできたらと考えていたんですよ。そんなとき、紙の専門商社の(株)竹尾さんが、「気包紙というパッケージ用の紙を開発したから、その紙を使ってPRしてくれるならバックアップしますよ」と言ってくださって。
竹尾さんとコラボできるなんて!と盛り上がって、それならすぐやりたい、と次の年に開催しました。
-「修正お願いします展」から、会場が心斎橋のカルタビアンカに変わっていますね。
そうですね。ハグルマ封筒(現・(株)羽車)さんの会社見学に行った際に、ギャラリーがあると紹介してもらって、見にいったらとても雰囲気が良くて。結局、カルタビアンカが2017年にクローズするまで使わせていただきました。
「修正お願いします展」大阪展
-カルタビアンカでは「修正お願いします展」に続いて「俺のバレンタイン展」、「Guess!展」、「SE7EN展」、「世界のPB展」とさまざまなテーマで開催されています。テーマはどのように決められていたのでしょうか?
テーマは皆で話し合って決めています。ずっと守っている決まりは、「意味の分からない英語とかのタイトルはやめよう」(笑)。おしゃれでかっこいいけど、一目で意味が分からないタイトルは私たちらしくないよね、と。英語のときもありましたけど、単語1つとか、わかりやすいタイトルを心がけています。
-確かにわかりやすくて親しみやすいタイトルです。回を追うごとに協賛企業も増えているようですね。
そうですね。竹尾さんに紹介いただいたり、パケクションの前に「印刷EXPO」というイベントをやっていたんですけど、そこで知り合った印刷会社さんに声をかけたりとか。
-協賛企業も増えて、入場者数も増えていったのでしょうか?
はい、ありがたいことです。
-カルタビアンカで最後に開催された2017年の「世界のPB展」は大阪以外に8都市(金沢、東京、広島、沖縄、福岡、名古屋、仙台、ソウル)巡回されていますね。カルタビアンカ時代の集大成といった印象です。
そうですね。ここでパケクションのシーズン1終了って感じですね。
「世界のPB展」は東京で展示させてもらえる((株)竹尾の見本帖本店での開催)というので、すごく気合が入っていましたね。
作品数も増やして、什器もオリジナルで作って、ゲストのデザイナーさんにも参加してもらいました。
東京で開催したことで、いろいろな地域から声がかかって、最終的にはソウルまで行きました。
海外展開できて、本当にありがたかったです。
「世界のPB展」東京展
「世界のPB展」名古屋展
-8都市巡回して、どのくらいの動員数だったのでしょうか?
総計はちょっとわからないんですが、全都市あわせたら2,000人くらいになるのではないでしょうか。
-2,000人!すごいですね。
「世界のPB展」ソウル展
展覧会からイベントへ。大きく変化したシーズン2
-翌2018年から展覧会だけでなく、パッケージに関わる印刷加工会社などが集うイベント「包装族」が始まります。これはかなり大きな変化だったのではないでしょうか。
そうですね。カルタビアンカもなくなり、メンバーも変わって、やりたいことも変化してきたんです。
-それがイベントだったんですね。
美術館に行くと、展示を見たあとのミュージアムショップがすごく楽しくて、むしろそこで長い時間過ごすよね、って話になって。だったらミュージアムショップのようなモノを選んで買って帰るというような状況を作り出せないかと考えました。
でも作品を作りながら販売物を作るのはハードルが高い。
ちょうどそのとき、印刷会社さんも紙博などに出始めている時期だったので、そういったイベントを自分たちでもやってみたいと思い、始まったのが「包装族」です。
私たちの展覧会のほかに、印刷会社さんや加工会社さんが包装にまつわる商品を展示販売するマルシェ・ワークショップの3本立てで開催しました。
パケクション・シーズン2の幕開けですね。
「包装族2018」
「もやいなかたち展」大阪展(包装族2019と併催)
ー作品作りと並行して、イベントの準備をするのは大変ではなかったですか?
本当に準備は大変でした。でも「やりたい!」っていう熱量がすごかったんですよね。メンバーの三河内英樹さんが「包装族」という名前を考えたのですが、皆その名前をすごく気に入ったんです。「包装族」という言葉で実現に向けてエンジンがかかったように思います。
-このあたりからコージィデザインさんがロゴを制作されていますね。
はい、コージィデザインの佐藤浩二さんに包装族のロゴやグラフィックを作っていただきました。一緒にできたらいいなと思っていたので、嬉しかったですね。このとき以来、ずっと展覧会のロゴとグラフィックをお願いしています。
-参加された企業の反応はいかがでしたか?
協力会社さんも「初めての経験だけど、やってみたい」とおっしゃってくださり、大変な部分もあったと思いますが、盛り上がりました。
-2回目の開催がコロナ禍になる少し前ですね。
そうなんです。2019年の11月に2回目の包装族を開催して、そのあと翌年の2020年にはコロナ禍になってしまって。
-新型コロナがなければ包装族は続いていたのでしょうか?
続いていたかもしれないですが、ちょっと悩んでいた時期でもあったんですよ。
イベントの中で展覧会を開くと、会期が2日や3日で短くなってしまうんです。
かといって、長くするのは負担が大きいし。
そんな中、金沢21世紀美術館で巡回展ができる、という話が舞い込んできていました。
いつも石川県の紙商社である(株)中島商店さんが開催されている「金沢ペーパーショウ」の竹尾さんのブース内で巡回展をしていたのですが、今度は会場が金沢21世紀美術館になる、と。
「次は金沢21世紀美術館でできる!」となって気持ちがそちらに向き始めていました。
結局は金沢ペーパーショウ自体が中止になって、実現しなかったのですが。
-続けるかどうか検討段階だったところに、新型コロナが流行し始めたのですね。
はい。「この状況ではイベントは無理だ」となって、ここでパケクションのシーズン2が終わりました。
予想もしなかった新型コロナ流行で突如終わったパケクションのシーズン2。コロナ禍で始まったシーズン3はいったいどんなものだったのでしょうか。中編ではシーズン3の行く末、そして新メンバーを加え、シーズン4の始まりともいえる次回展覧会についてお話を伺います。
パケクション
パッケージング・オールナイト展
2024年10月2日(水)~8日(火)
10:00~20:00(最終日は18:00まで)
心斎橋PARCOスキーマギャラリー
https://allnight.pakection.com
【次回展覧会参加メンバー】
三原美奈子(三原美奈子デザイン)
馬場良人(ばばデザイン)
三河内英樹(イングアソシエイツ)
山内理恵(ノアプランニング)
齊藤桃子(KAKAN DESIGN)
髙木直也(サン・クリエイト)
PAKECTION!(パケクション)WEBサイト