前編に続いて、日本においてデザインの専門会社の草分けであるGKデザイングループの(株)GKグラフィックス 元代表取締役社長・村井大三郎さんに「ブランドをデザインするということ」を語っていただきます。

村井 大三郎 (GKグラフィックス元代表取締役社長)

進化してきたブランドデザインの手法
 
企業は優れたブランドであることを認知してもらうため、積極的にCI(Corporate Identity:身元、正体、独自性、自分らしさを証す)に取り組むようになり、社内、社外の両面に向けて企業活動の活性化を図ることに力を注ぐようになりました。

世界におけるブランドデザインの歴史的流れを見ると、50年代にOlivettiが打ち出した「House Style」と呼ばれる前衛的な経営手法は、企業価値を高めたことで高い評価を得ます。

その後、そのムーブメントはアメリカに渡り、60年代には「Design Coordination」と呼ばれるようになり、70年代には「Corporate Identity」へと進化します。それは、企業独自のイメージを明確に形成することで、存在を広く認知させるマーケティング手法として盛んに取り入れられました。

80年代には「Design Management」と呼ばれるようになり、デザインを経営の中心に置き、製造からマーケティング、広報、製品、広告宣伝、販売方法までを統一させる経営手法が登場します。そして、今日、「Brand Design」は、調査・分析からブランド戦略の立案、実行まで、ブランディングの全プロセスを一貫して行う重要な経営手法となっています。

ちなみに日本で産業界がデザインの力に注目したのも1950年代です。

GKデザイン(以下GK)がデザイン会社としてスタートした頃、デザイン賞をもらった製品が新聞に取り上げられ、それらの製品がよく売れるようになったことから、モダンデザインが脚光を浴びるようになりました。
モダンにデザインした美しい製品は良く売れる!と、まるで、デザインは魔法のように受け止められました。
「デザインものは売れる」というジンクスが広まって、いろいろな企業からGKにパッケージデザインやプロダクトデザインを頼みに来るようになったと聞いています。

日本の産業界が「デザインの力を評価した」ときでした。
やがてGKの名も広く知られるようになり、デザイン会社として有名なブランドになりました。

ブランドの価値を最終的に決めるのは顧客

企業の経営環境が激変することで直面することになった問題への解決策として、ブランドデザイン手法を取入れ、従来のブランドイメージを刷新することに取り組むケースが増えてきています。

『ブランドの価値を最終的に決めるのは顧客です。
顧客に対するブランドの約束事が顧客の感じるブランドの価値となるのです。
”BRAND=SUM of Experience” 、ブランドは、生活者の総ての体験の集積値なんですよ!』
と述べたのは、かつて、企業の開発者やデザイナーを前にDesign Management Seminar国際会議で講演したハーバード•スクール•オブ•ビジネス教授のピーター・ローレンス氏でした。

続けて彼は『ブランドデザインは、顧客に対して最初のパーティシペート(参加)をさせることがメインの役割であり、その後がどうなるかは、提供する製品品質の問題だと考えています!』と、企業の開発者に向けて手厳しい意見も忘れません。
ブランドデザインの役割を明確に表現し論破した語り口に、感動しながら聴き入っていた私も、会場も大きな拍手に包まれました。

ブランドをデザインするということ

ブランドをデザインするということは、ブランドアイデンティティの品質を創るということです。
ブランドを形成する、それぞれの専門領域、モノ(Product)・視覚(Visual)・場(Space)・作法(Behavior)を繋げたものが、ブランドイメージを統一的に表現するブランドの品質となります。

グラフィックデザイナーは視覚表現を得意とするプロフェッショナル、視覚的価値を創る専門分野です。
他の専門領域のデザイナーとタッグが組めるブランドデザインに「グラフィックの力」を発揮して欲しいと願っています。

最後に、同じ国際会議の基調講演で会場を沸かせたピーター・ローレンス氏の名言を紹介します。
『Design Made The Value Visible!』意訳するなら「デザインは、価値が、目に見えるように、できる!」。
このフレーズは、Design Management会議に向けた発言ですが、まさに、「ブランドデザインとは」にも通じる的を得た概念です。

会議の3日間、参加者の誰もがすれ違う度「Hi!」ではなく「Design Made The Value Visible!」と、楽しい挨拶を交わし合いました。今もなお、デザイナー心をくすぐる嬉しい言葉です!   

ブランドデザインに興味を持たれたなら、あなたの憧れる「ブランドもの」は、どのようなメッセージを発信しているか、モノ(Product)・視覚(Visual)・場(Space)・作法(Behavior)は、それぞれ、どうなっているのか、観察することをお勧めします。

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