紙うつわの挑戦 ・前編
前橋市で生まれ、全国各地から取り引きされている紙うつわ。陶器のような滑らかな質感で、プラスチックのように扱いやすく強度もある紙100%でできた容器です。開発者である「くらまえ」の代表、大原康弘さんに開発秘話を聞きました。
プロフィール
大原康弘(おおはら・やすひろ)
1967年10月、群馬県前橋市生まれ。千葉工大卒。機械金属加工の蔵前産業に入社、32年間にわたり設計、プログラミング、生産管理・製造技術にあたる。2022年3月に独立、紙うつわの「くらまえ」を創業する。「グッドデザインアワード2017」入賞。 。
株式会社くらまえ
2022年4月創業。蔵前産業株式会社が「開拓する・開発する」という意味を込めて発足したExplo事業部が母体。紙容器の企画から量産まで一貫体制で提供する紙容器事業、さまざまな素材と紙を組み合わせた容器を開発する新パッケージ事業、診断機事業を展開する。
前橋市上大島町176-44
TEL 027-261-3552
https://kamiutsuwa-kuramae.com
北は北海道から南は九州まで
―― 「紙うつわ」が好評ですね。
福岡の「やまや」さんの明太子の容器に使われてから爆発的に売れるようになりました。母の日用ギフトから始まり、すでに約100万セットの注文をいただきました。お陰様で年末年始もなく、90日連続で働いています(笑)。
―― いろいろな製品がありますね。「ぐんまちゃん」は特にかわいらしい。
「ぐんまちゃん」にはカフェチョコを入れて販売しました。一番かわいく見えるよう、生みの親であるデザイナー、中嶋史子さんにデザインをミリ単位で注文しました。
北海道の菓子店「六花亭」から福岡の「ふくや」まで日本全国で展開しています。
――同じ形の容器を、複数の企業が違う使い方をしているのはおもしろいですね。
この繭型容器は汎用性が高くて、「やまや」ではめんたいこ、「六花亭」では福豆、千葉県の「PAPABUBBLE」ではピーナッツキャンディー、新潟県の「大和屋」では「雪だるま」というお菓子のパッケージとして使っていただいています。
確かに、めんたいこも落花生も雪だるまも繭の形をしていますからね。
150度ワンプレスで成型
―― 紙うつわ誕生のきっかけを教えてください。
偶然の産物として2015年に生まれました。大学を卒業してから務めていた蔵前産業で紙容器の金型製造をしていて、大手印刷メーカーと共同研究した経験がありました。 会社で紙容器の製造を始めるようになり、最初はしわだらけで商品にならなかったのですが、共同研究の記憶が頭に残っていて、(低:削除)密度の低いふわっとした紙を投入したところ、奇跡的にしわのない容器を作ることができました。製法の特許を申請し取得しました。
―― どのように作るのですか。
世界でも珍しい紙容器成形機を使い、150度以上の温度をかけ、1枚の紙をワンプレスで成形します。
―― 最初から「売れる」手ごたえを感じましたか。
他には真似ができないだろうという自信はありました。容器は身(本体)と蓋のセットですが、国内パルプ100%、樹脂を入れないものはうちしかできない。長くものづくりをしていて技術屋としては大満足でした。あとはどう売るかでしたね。
―― 販路はどう開拓したのですか。
最初は手探りで、ツテを頼りに試作品を置いてもらったりしました。新たに立ち上げた事業部でホームページを制作したところ、じわりじわりと拡散され、「やまや」さんから注文を受けるようになってから火が点きました。