毎回、パッケージデザインにかかわる「ぱっけーじん」にご登場いただき、さまざまなテーマについて語っていただく特集企画。第1回は、「AIとぱっけーじん」と題して、株式会社プラグの小川亮さんに登場いただきました。前編では、小川さんがAIに注目した理由やAIをパッケージデザインに導入した効果についてお聞きしました。

「ぱっけーじん」の小川さんが、AIパッケージデザインにAIを活用しようと思ったきっかけは?

――小川さんは、パッケージデザインにAIを導入した第一人者と聞いています。

いえいえ、そんな大げさなことはしていないんですよ。「よいパッケージデザインって、なんだろう」と考えているうちにたどり着いたのが、「AIの活用」でした。

「よいデザインについて知るために、まずは消費者の気持ちを探ってみよう」と、私の会社で消費者調査をはじめました。データが溜まったので「このデータを活用して、何かできないかな」と考えるようになったのが、2015年頃。ちょうどAIが注目を浴びはじめていたこともあって、「消費者が求めるデザインを、AIで評価できたらおもしろいな」って考えました。だから最初は、パッケージデザインの評価をする「評価AI」の開発からスタートしたんです。

――評価AIの開発を自分たちで行ったのですか?

私たちの会社は、消費者調査(マーケティング・リサーチ)とデザインの2つのサービスを提供していて、AIシステムの開発に関しては素人です。でも、ノウハウを社内にストックしたかったので、自分たちで開発を行いました。東京大学の山崎俊彦教授に協力していただいて、AIが予測する精度を高めていき、2019年に「パッケージデザインAI」の第一弾として「評価AI」をリリースしました。

――第一弾ということは、第二弾も開発したのですね。

そうなんです。「デザインを作ること」にAIを生かせないかと考えました。パッケージデザインのプロセスにはいろいろあって、ある程度デザインが固まってからも、消費者調査の結果を改善するために、マゼンタを5%上げてみるといったような微調整を何度も行います。とても細かな作業で時間がかかるし、「この工程はクリエイティブではないのではないか」と兼ねてから思っていました。そこで、「消費者が評価してくれるデザインに微調整していく」というプロセスをAIが担うシステムを開発し、「パッケージデザインAI」の第二弾として、「生成AI」をリリースしました。

――リリース後の反応はいかがでしたか。

リリースした当初は、あまり理解が得られませんでした。そのようななかでも、外資系の企業が「日本の会社がおもしろそうなことをやっている」と興味を持ってくれました。ユニリーバ・ジャパンやネスレ日本など外資系企業が次々とパッケージデザインAIを導入してくれて、日本企業の注目を集めるようになりました。さらに、「日本サービス大賞 総務大臣賞」など賞をいただいたことで、信頼度が一気に高まっていきました。

また、2022年に「Midjourney」や「Stable Diffusion」といった画像生成AIが次々とリリースされました。それまでのAIは、画像診断などクリエイティブ以外の分野で注目を浴びていましたが、画像生成AIがリリースされたことで「AIで画像を作ることができる」と一般の人々が認識するようになったのです。これがきっかけで、潮目が一気に変わったように思います。

 

人知を超えたアイデアがいっぱい! AIがパッケージデザインでできること

――パッケージデザインAIを導入すると、どんなことができるのですか。

生成AIは1000万人以上の消費者調査で得たデータをもとにAIがデザインを評価します。一方、生成AIは、デザイン案を評価したうえで、新たなデザイン案を生成します。生成と評価を繰り返して、たくさんのデザイン案を作ることができます。

デザインソフトの場合、文字や画像を配置したり、色やカタチを調整してデザインを作り上げていくので、イメージとしては「切り絵」のような作業になると思います。一方、生成AIは「ゼロから作ること」が得意。たとえるなら、粘土でカタチを作っていくようなイメージです。

――パッケージデザインAIを活用した事例を教えてください。

先に話したユニリーバ・ジャパン様は、すべての商品で商品開発時の評価に当社のパッケージデザインAIを使っていただいています。最近は、カルビーや味の素、オタフクソース様など、日本企業も導入いただいています。たとえばオタフクソースさんはパッケージデザインをリニューアルする際、デザイン案の評価に評価AIを活用しています。

――次々と導入が進んでいますね。小川さんの会社でも、パッケージデザインAIを活用しているのですか。

はい。様々な挑戦をしています。社内では最初のアイデア出しでよく使うのですが、「突拍子もないデザイン」が出てきておもしろいですよ。先日もカップラーメンのデザイン案を考えるために生成AIを使ってみたら、「3本のフォークが麺を持ち上げているデザイン」が出てきました。
私たち人間ではとても思いつかないですよね。3本のフォークが持ち上げている麺がまるで「滝」のようで、とても迫力がありました。思ってもみなかった角度からおもしろい案が出てくるので毎回刺激を受けるし、生成AIがつくったデザインを軸にアイデアがどんどんふくらんでいきます。

――フォークが3本!? AIは私たちが想像している以上にユニークな存在のような気がしてきました。中編では、小川さんのパッケージデザインに対する「思い」や、小川さん自身が感じている「AI活用による変化」についてお聞きします。ご期待ください!