「ぱっけーじん」サイトオープンに先立ち、AIとパッケージデザインに関するセミナーをオンラインで開催しました。Part1は、特集記事にも登場の小川亮さん。Part2は、Adobe株式会社でマーケティングマネージャーを務める岩本崇さん。ここでは、Part2岩本さんの講演、アドビの画像生成サービスやアプリの開発動向、既に利用可能な機能などについて概要をご紹介します。


AIがもたらすクリエイティブな未来は、もうそこに

1982年にアメリカで創業したアドビは、ポストスクリプトというグラフィック記述言語を開発し、Illustrator、Photoshopといったデザインワークや画像加工のクリエイティブツールを世に送り出してきました。「すべての人につくる力を/Creativity for All」を理念にしており、近年はプロフェッショナルから一般の方々へと利用が拡大、中でも動画での発信・投稿が一般化したこともあり、動画編集アプリのユーザが増えています。

AI、デザイナーの方々は、Adobe Illustratorをそう呼びますが(笑)、本日は、Artificial Intelligence、人工知能のお話です。Photoshopのオブジェクト選択ツールなどのように、早くからAIが搭載されてきました。主に制作作業の負荷軽減や時間短縮を目的としたものでした。機械学習/マシンラーニングによる「学びの繰り返し」で、AIはどんどん賢くなります。ここ数年は、Adobe Sensei(アドビ センセイ)というフレームワークで、自動化による反復作業の効率化、バリエーション提案と意思決定の迅速化、コンテンツ制作スキルの補完などを推進してきました。

生成AI、ジェネレイティブAIが始動

Adobe Senseiをさらに進化させ、2023年3月からAdobe Firefly(アドビ ファイアフライ)という名称で、生成(ジェネレイティブ)機能を持たせたベータ版アプリを展開、2023年9月には日本国内でも商用利用可能なアプリとしてリリースしました。生成AIとは、与えられた言葉の指示(プロンプトと呼びます)により、新しいコンテンツを作り出す(生成する)のが、代表的な技術のひとつです。AIが学習した大量のデータから、プロンプトにふさわしいコンテンツを提示します。例えば、「海を泳ぐいちご」や「山で焚火をする犬」といった一般的ではない言葉からも、リアルな画像を生成します。
参考サイト:https://www.adobe.com/jp/sensei/generative-ai/firefly.html

生成AIの普及スピードは驚異的です。例えば、世界中で1億人のユーザを獲得するのには、Google翻訳は78ヶ月、インスタグラムは30ヶ月だったのに対し、ChatGPTはわずか2ヶ月でした。(出典:https://www.assemblyai.com/blog/the-full-story-of-large-language-models-and-rlhf/
スマホやPCを誰もが利用する現在のインフラ環境では、ビジネスにおいても、一般ユーザにとっても、「便利じゃない?」「頼りになるね!」と使わない手はないですね。

商用利用を目指した画像生成AI

Adobe Fireflyは、権利化されているコンテンツを学習対象から除外しています。これは生成結果が他者権利を侵害することを避けるためで、安心して商用利用できることを目指しています。3億点を超える素材を有するAdobe Stockの中でオリジナルコンテンツを作成したカメラマンやクリエイターから対価を得て提供されたものや、オープンライセンスの画像、著作権が失効したものなどを学習対象にしています。
また、多様性への配慮も重要なポイントです。例えば「ミーティングに集まった社員たち」と入力すると、人種、年齢、性別に配慮したバランスで画像を生成します。

クリエイターの味方となるために

Adobe Fireflyでトレーニングに協力(AIの学習対象となるコンテンツを提供)いただいたクリエイターの方々には、利用度に応じてポイントの形で利益を還元しています。また、トレーニング対象から自身の特定のコンテンツを除外するなどの取り決めもクリエイターの方々とおこなっています。

ほんものそっくりの画像や動画、音声など精度の高い生成AIは、フェイク画像やフェイクニュースを助長するというリスクがあります。生成したコンテンツの信頼性を高めるために、団体(注1)を設立し、ジェネレーティブAIで生成したコンテンツであることを示す来歴情報をコンテンツに自動添付する(注2)といった取り組みを進めています。

注1:コンテンツ認証イニシアチブ(CAI:Content Authenticity Initiative)
2019年にデジタル認証を通じてコンテンツの作者の権利が守られるためにAdobeが設立。オンラインコンテンツの信頼性を高め、誤報や偽情報に対抗する事を目的としており、現在、日本を含む画像産業の企業やメディアなど世界55カ国以上から1,500を超えるメンバーに参画いただき仕組みづくりをしています。
注2:コンテンツクレデンシャル
デジタルコンテンツにその来歴と帰属を記載し、誰もがそれを確認できるようにする機能

Photoshopの生成塗りつぶし機能

テキストからの画像生成は、実際にAdobe Fireflyを使って試していただくとして(講演では多数のデモが紹介されました)、生成塗りつぶし機能は、Photoshopでも2024最新バージョンから搭載されています。例えば、縦長の風景画像を元々はない左右の部分を生成させて横長画像にするといったことも可能です。

上がオリジナル(縦長画像)、下が生成した画像(横長画像、提示された3案の一つ)です。プロンプトを入力せずに生成したもので、オリジナル画像から自然な感じで手前の湖を左右に広げ、山間部は右側を紅葉樹林、左側は主に雪山を広げています。どこがつなぎ目かわからないほどの仕上がりです。(上画像をトリミングして下画像にしたわけではありません)

プロンプトを使用した生成の例もご覧いただきます。上が生成前、下が生成後の画像です。

セミナーの一コマに、このキャラクターを全て出すのはなかなか大変でした。「座ってネクタイをした犬のぬいぐるみ」などを入れて・・・入力するプロンプトによって出てくるイメージが違います。プロンプト(言葉の指示)が、このようなジェネレイティブAIツールの利用では不可欠です。個々の生成画像はレイヤーで分かれているので、トライ&エラーをしながら最終形を見つけてください。

Illustratorの生成再配色機能

以前から再配色の機能はIllustratorにあり、新たに生成再配色の機能が追加されました。プロンプト入力の他、サンプルプロンプトも利用可能。最近搭載された3D機能との併用でボトルへの貼り付けシミュレーションなど表現の幅が広がります。

上画像:モノクロデータに生成再配色サンプルプロンプトで色を施し、差し色で赤を追加
下画像:3D機能で作成したボトル形状にラベルを貼り付け、背景も別途生成


ジェネレイティブAIはパラダイムシフトをもたらす

岩本さんの講演では、ここでは紹介しきれないほど多くのデモを見せていただきました。質疑応答の時間には、「世界中のコンテンツを学習しているので、言葉のニュアンスの違い、文化の違いで、生成されるものがイメージしていたものと異なることはあります。今後さらにワールドワイドな言葉を学ばせていきます。IllustratorやPhotoshopも最初から使いこなせてはいなかったのと同様、プロンプトもコツをつかむと大いに活用できていきます」とのお話もありました。
最後に「ジェネレイティブAIは、デザインプロセスがデジタル化で大きく変化したように、パラダイムシフトになります。ワークフローは変わっていっても、オリジナルをつくるというデザイナーの仕事は変わらないでしょう。ぜひ使いこなしてください」と締めくくりました。