2018年、前橋の中心商店街に開業した和菓子店「なか又」。海の青をテーマカラーに、おしゃれなパッケージをまとったお菓子が並びます。同店を経営する村瀬隆明さんはデザイン会社の代表でクリエイティブディレクター。前橋市街地の活性化プロジェクトにアートディレクターとして参加したことを機に、店をオープンしました。

プロフィール

村瀬隆明(むらせ・たかあき)

1978年、名古屋市生まれ。2005年、デザインファーム「ナニラニ」設立。ブランディングなど広義のデザインを志向。2013年から前橋市の活性化に携わり、2018年「和む菓子 なか又」を開店。2020年、「スイート」を設立し、菓子事業に本格的に進出。

なか又 前橋本店

群馬県前橋市千代田町2-7-21
TEL 027-896-9359
https://www.nkmt.jp


実家の屋号を和菓子で繋ぐ

―― 村瀬さんは名古屋出身で都内在住。なぜ、前橋に出店しようと思ったのですか。

仕事として前橋市街地活性化プロジェクトに関わり、前橋に何度も通ううちに、前橋という土地を好きになったのが大きいですね。 それと同時に、「前橋と言ったらこれ」っていうお土産がないのも気になっていました。近い将来、全国から多くの方がやって来られたときに、お土産として買い求めてもらえるようなものを作ったら、商売的にも、前橋を後押しする意味でも効果的じゃないかなと考えました。

―― 出店にあたり初めに取り組んだことは?

まず、商品のコンセプトを「和む菓子」と決めました。 前橋は人と人との関係性が、非常に近い街。東京では隣りに住んでいる人と話す機会すらありませんが、前橋で商店街を歩いていると、必ず誰かしら知り合いに会って、近況報告をしたり、立ち話をしたり。都会にはない、温かさみたいなのを感じました。それが「和む」という気持ちだなと思ったんです。

――和菓子でも洋菓子でもない和む菓子なのですね。

ええ。私たちは特別にお菓子の修行をしてきたわけでもなく、老舗でもないので、独自のコンセプトで展開するのが武器になると考えました。

―― なか又という屋号はどこから?

今どき風の横文字の名前もいろいろ考えたんですが、いまいちピンとこなくて。 そんなときに思いついたのが、実家の屋号を復活させること。名古屋で100年近く続く練り物屋で、父の代で廃業しました。その屋号が「なか又」。 子どもの頃はなか又という名前があまり好きじゃなかった。古めかしいというか違和感があって…。でもその違和感がきっと、初めて聞いた方にも覚えていただけたり、頭や心に残るんじゃないかなと考えました。 長男として、実家の名前を繋ぎたいという思いもありました。

―― ロゴも個性的ですね。

「丸の中に又」という昔の練り物屋で使っていたロゴをベースに、幾何学的な模様を掛け合わせて現代風にアレンジしました。文字は活版印刷時代の書体をベースに独自に作った書体です。 なか又のブランドビジョンは「和むをふやす」。そういう意味で、和みの「和」は、和えるの「和」でもあります。和えるとは足し合わせること。常識にとらわれず、和風も洋風も和えてみようと。それはロゴもパッケージも商品作りでも同じです。

海のない群馬に海の青

―― テーマカラーはなぜ青に?

2つ理由があります。実家のなか又は、練り物屋で水産加工の会社だったんですけど、その前は、魚の卸をやっていたんです。もっと前、江戸時代には海運業を手掛けていました。そういう意味で、海の青を採用できないかなと思いました。 もう一つは、群馬県って海なし県じゃないですか。そこに海の色を持ってくるのはおもしろいし、新鮮かなという思いもありました。

―― お菓子屋さんで青を使うケースは少ないですよね。

ええ、最初は周りから反対されました。飲食やるなら暖色系の方が美味しそうに見えるんじゃないかと。でもそれだと普通なので。 僕ら新参者は目立って存在感をきちっとわかっていただかないと商売は始まりません。他社との差別化という意味でも効果的だと考えました。

―― 青も無数にありますが。

どらやきを主力商品としてやろうっていうのは決まってたので、どら焼き生地の色、黄色、茶色みたいな色との相性を意識しながら、最終的なブルーの色味を調整して。数100パターンの中から、今の色に決めました。 青でも冷たい印象になりすぎないように。黄色や緑が多めの、ターコイズブルーやエメラルドブルーみたいな色を意識したカラーにはなっています。