2018年、前橋の中心商店街に開業した和菓子店「なか又」。海の青をテーマカラーに、おしゃれなパッケージをまとったお菓子が並びます。同店を経営する村瀬隆明さんはデザイン会社の代表でクリエイティブディレクター。前橋市街地の活性化プロジェクトにアートディレクターとして参加したことを機に、店をオープンしました。

プロフィール

村瀬隆明(むらせ・たかあき)

1978年、名古屋市生まれ。2005年、デザインファーム「ナニラニ」設立。ブランディングなど広義のデザインを志向。2013年から前橋市の活性化に携わり、2018年「和む菓子 なか又」を開店。2020年、「スイート」を設立し、菓子事業に本格的に進出。

なか又 前橋本店

群馬県前橋市千代田町2-7-21
TEL 027-896-9359
https://www.nkmt.jp


街を変えるショッパー

―― なか又の看板商品を教えてください。

「ふわふわ わぬき」といって、パンケーキみたいな柔らかい生地に個性的なクリームや餡を入れたまん丸いどら焼きです。前橋市の市章は「輪貫」。だから、まん丸いお菓子を作ろうとデザインしました。 2023年11月には人気商品の「わもち」に新味を追加し、パッケージもリニューアルしました。こちらは「和をもつ」という想いから名付けました。優しい甘みのつぶあん、苦味のある抹茶、濃厚なコクのカスタードを、もち粉をブレンドしたもちもち食感の生地で包んでいます。

―― ショッパーがとても素敵ですね。

ショッパーは非常に大事なツールだと考えています。我々が出店を決めた2018年は、前橋の商店街は新規出店する店舗もほとんどなく、非常に閑散とした街並みだったんですけれど、そこにきれいな青の紙袋を持って歩く人たちがいることで、何か街が変わったというか、何か新しいものが生まれてきたんじゃないかなと映ることがすごく大事だなと思ったんです。 街を元気にするという意味で、とても力を入れて作りました。

―― 確かに商店街が華やいだような気がします。お菓子は青のボックスで提供されていますね。

当初は白い箱に入れて、青の包装紙で包んでお客様にお渡ししていたんです。和菓子は包むものという思い込みがあって…。 でも、包装するという作業は、販売のスタッフに手間をかけますし、お客様もお待たせしてしまいます。1箱包装するのに1分以上かかりますから。 当初はクレームも寄せられ…。良いものを作っても、お客様が喜んでくだされなかったら意味がないと、自ら事業をやることで、学ばせていただきました。 2023年から包装紙は原則止めて現在の青の箱を採用しています。

―― 行列のできる人気店になりました。前橋で発祥し、いまは大都市にも出店していますね

お陰様で、2022年に新宿の伊勢丹に出店し、21年に名古屋の花桔梗というブランドもグループ化し名古屋での展開も始めました。

画像生成AIで美人画

―― 美人画の描かれた熨斗もありますね。

この絵は画像生成AIを使って作りました。熨斗は個別のお菓子用ではなく、和の雰囲気をお求めの方や、インバウンドの外国人のお客様用に作ったものです。
あえて古めかしい、昔の美人画風なものを、最先端のAIに書いてもらうっていうのが、僕たちらしいかなと思っています。

―― 今後もAIを積極的に活用していきますか?

製造計画や販売計画にもAIの力を利用し、生産性を上げていきたいです。和菓子業界はきつい、厳しいといわれていますが、最先端の働き方にアップデートし、若い人たちに支持される仕事にしたいですね。

―― デザイン業と和菓子店、両立をされて5年、いまどんなお気持ちですか?

デザイン業っていうのはBtoB、和菓子店はBtoC。直接お客様の喜んでくださる姿や声を聞くことが出来るという点が、今までやってきたビジネスとは全く逆です。それは非常に楽しいし、ありがたいと思っています。自分の価値観や出会う人も含めて、世界が大きく広がったなと感じています。