毎回、パッケージデザインにかかわる「ぱっけーじん」にご登場いただき、さまざまなテーマについて語っていただく特集企画。第4回は、ソニーグループ株式会社の廣瀬賢一さんにインタビュー! 子どもの頃から自然が好きで好奇心旺盛だった廣瀬さんは大学でデザインを学び、ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)に就職。パッケージデザイン担当としてキャリアを積みながら、2021年には環境に配慮した紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」をリリースします。パッケージデザイナーの廣瀬さんが環境を意識するようになった経緯や、環境とデザインの関係性、持続可能な社会に対する思いについてたっぷりとお聞きしました!

プロフィール

廣瀬 賢一(ひろせ・けんいち)さん

ソニーグループ株式会社
クリエイティブセンター クリエイティブ
プロダクショングループ
Value Development チーム

1993年入社。京都府出身。子どもの頃から自然と戯れ、ミジンコからカジキまでさまざまな生物を採取して楽しむ。高校時代は天文部、写真部、美術部に所属。ソニーに入社した理由は、「大好きなソニーのカセットテープをデザインしてみたい」と思ったから。

ソニーグループ株式会社

https://www.sony.com/ja/


入社1年目、パッケージデザイナーの廣瀬さんが心に抱いた「決意」とは!?

――廣瀬さんは「ソニーのカセットテープをデザインしたい」という理由からソニーに入社したって聞いたのですが、本当ですか?

本当です。当時、カセットテープは複数のブランドが対立していて、僕は「ソニー派」だったんです。学生時代、今で言う「インターンシップ」を2週間ほど受け、1993年に入社しました。

――最初に手掛けた商品のことを覚えていますか?

もちろん。ちょうどカセットテープからMDに移行する時期で、ソニーはそれ以外にも8ミリビデオやCD-Rなどいろいろなメディアを開発していました。そんななか、僕が最初に担当したのが、ICレコーダーのパッケージデザインでした。リリースした日はすごく嬉しかったなぁ。でも……。

――でも? 何かあったんですか!?

「リリースされた!」と喜び勇んで秋葉原の電気街まで見に行ったら、道端にパッケージだけ捨てられていたんです。

――それはショックですね……。

店に辿り着く前、横断歩道を渡ろうとしたら足元に落ちていて。

――1秒でも早く商品を使いたくて、思わず捨ててしまったのでしょうか?

僕はあの時、「パッケージはいずれ捨てられる運命なんだ」と思ったんだけれど、同時に「捨てられる運命のパッケージだからこそ、できることがあるはず」という気持ちにもなりました。

――それがパッケージデザイナーの廣瀬さんが環境を意識するようになった「原点」なのでしょうか?

そうかもしれません。ただし、これは僕に限ったことではないと思います。秋葉原のエピソードからわかるように、パッケージは早い段階で捨てられる運命にある。パッケージデザイナーはそれをわかっているから、常に「環境」を意識してデザインしていると思います。

市場回収ペットボトルを使用した再生素材を使って、「aibo」のパッケージをデザイン!

――「捨てられる運命にあるパッケージだからこそ、できることがある」と廣瀬さんは言いました。廣瀬さんにとって「できること」は何だったのでしょうか?

環境への意識が常にあったので、「すべて紙素材にしてみよう」「ダンボールはどうかな」など、いろいろ考えてトライアンドエラーを繰り返しました。けれど、最初の頃はなかなかうまくいきませんでした。特に僕がソニーに入社した1990年代は、華やかなパッケージデザインが支持されていて、環境に配慮したパッケージは注目を浴びづらかったんです。

――課題がたくさんあったんですね。それでも廣瀬さんは、環境に配慮したパッケージを諦めなかった。

そうですね。ここでソニーのデザインに対する考えをお話ししてもいいですか?

――もちろん。ぜひお願いします!

ソニーにはデザインを専門に手掛ける「クリエイティブセンター」という部門があって、組織が発足した1961年当初から「人のやらないことをやる」という考えを育んできました。「原型を創る」というデザインフィロソフィーを掲げているのは、このようなソニーのDNAが根底にあり、特にパッケージに関しては、「OoBE(ウービー)」の考えを大切にしています。

――OoBE?

OoBE は「Out of Box Experience」の略で、開封体験という意味をもつ言葉です。一般的な言葉として浸透していますが、ソニーは「パッケージを手にとって開封し、最初に商品と出会う一連の流れを、ストレスなく体験していただくための“基本作法”」として位置づけているんです。

――そこまで考えてパッケージをデザインしているんですね。

例えば、パッケージのふたを開けてから商品にたどり着くまで、複数のアクションがありますよね。このアクションを少なくするにはどうしたらいいだろうと考える。また、パーツをユーザーが自分で取り付ける商品だったら、パッケージを開くと、取り付ける順番にパーツが出てくるような仕組みにする。

――ソニー独自の考えである「ストレスのない開封体験」。そこに、環境を配慮した素材を組み合わせていったということですか?

その通りです。環境に配慮して「再生素材」を採用し、さらにリサイクルしやすいように「単一素材で完結すること」としました。こうして、市場回収PET素材を利用したパッケージ開発に乗り出しました。

――市場回収PET素材を採用した理由は?

加工や成形がしやすいからです。シートに加工することもできるし、糸や不織布にすることもできるからです。

――おお! 変幻自在ですね。

この素材を使って、さまざまな商品のパッケージを開発してきました。自律型エンタテインメントロボット「aibo」のパッケージはその1つですね。

――では、前編はここまでにしましょう。中編では、成形がしやすい市場回収PET素材を使って環境に配慮したパッケージの開発に乗り出した廣瀬さんが、その考えをどのように発展させていったのか。紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」の開発エピソードをご紹介します!

環境とデザイン・中編――――循環を生み出す環境に配慮した素材とは?――へ続く


自律型エンタテインメントロボット「aibo」のパッケージは、市場回収PET素材を用いて作っています。Eコマースで発売するため、店頭販売よりも形状の自由度が高く、角を丸くしたパッケージにしました。このパッケージで、「日本パッケージデザイン大賞2019」大賞を受賞しました(廣瀬さん)。