平塚章太郎(ラジアン プロデューサー兼プランナー)

“ワーク”から“プロジェクト”へ
ブランディング業務の関わり方の変化

私は今パッケージデザインを手がけるデザインプロダクションでプランナーをしていますが「ブランディングをしたいのですが、何から手を付ければ良いのでしょうか……」という相談をクライアントから頻繁にいただくようになりました。
しかし、シンボルマークやロゴタイプの制作を専門にしているわけではないデザイプロダクションにとって、ブランディングとは自分達とあまり縁のない小難しいテーマでした。
増えつつある相談を前に何から手を付ければ良いのか見当もつかず悩んでいたのはかつての我々も同じだったのです。

すこし前まではデザインプロダクションに所属するクリエイターの日常業務は、クライアントや広告代理店が用意してくれたオリエンシートで始まるのがもっぱらでした。
たまに参加するブランディング業務でも本質的な部分は広告代理店やブランディングコンサルタントが一分の隙もなく体系化してくれていました。

我々デザインプロダクションに期待されている役割は、視覚的なブラッシュアップだったのです。

今でも「ブランディング=ロゴやマークの見た目を整えること、個性的でカッコいいデザインをすること」という“ワーク”の意味合いで語るアートディレクターやデザイナーと出会うこともありますが、それは当時の感覚の名残なのかもしれません。もちろん、現在もその解釈が適切な場合があるので一概に間違いというわけでもありません。
しかし、少なくとも私の周囲に寄せられる最近のブランディング案件は“プロジェクト”と言うべき広い範囲の相談が明らかに多くなっています。
かつては広告代理店やブランディングコンサルタントが整理してくれたフローも、パッケージデザイン担当の筈だった自分達で大汗をかきながらまとめる時代になったのです。

私が所属するデザインプロダクションも今では「ブランディング」を自社の事業領域に堂々と掲げるようになりました。しかし、それはここ2~3年のことであり自分達らしいブランディング業務の進め方を試行錯誤する毎日であることには変わりありません。

デジタル広告とブランディング

パッケージデザイン担当だった筈のプロダクションにブランディングの相談が多く寄せられるようになった理由は、デジタル広告の隆盛と無縁ではないと考えています。

今日ではSNS広告、検索広告、オンライン動画広告などの多種多様なデジタル広告が用意され、TVCMや新聞などのマスメディアの広告と比較すればリーズナブルな費用で自社の製品やサービスをコミュニケーションすることが可能になりました。それ以前はブランディング業務の出口はマスコミュニケーションに頼ることが多く、異なるマスメディアで一貫性のあるメッセージと世界観を展開することが得意な広告代理店に相談することが理にかなっていた筈です。

デジタル広告の充実により、いろいろな企業がコミュニケーション施策をともなったブランディング施策を試みるようになりました。パッケージデザインなどで取引実績のあった我々デザインプロダクションに相談が寄せられている理由だと思いますが、デジタル広告特有のターゲティング精度の高さも新たなブランディングの需要を生んでいると感じています。

マスメディアの広告を活用したかつてのブランディングコミュニケーションでは多くの人に知ってもらうことが重視されていました。
一方、現代の細分化された市場では特定の顧客の課題や気持ちを掘り下げ、どのような価値をもたらす製品やサービスであるかを精緻に整理しておく必要があります。
そうしないとデジタル広告の強みを生かせず、購買活動まで効果的に繋げることが難しいからです。

視覚化したり広告を用意したりする前段階の細かい整理こそ、最近我々に相談が寄せられるブランディング業務の本質と言えるでしょう。

パッケージデザインをはじめ、ロゴデザインやウェブデザインなど各種デジタル広告用のクリエイティブ“ワーク”を担当していた我々デザインプロダクションが、ブランディング“プロジェクト”にも参加するようになったもうひとつの理由です。

クリエイティブを活用するブランディングプロジェクト

ブランディングとは何か?を考え始めるとキリがないのですが、個人的には「約束の言語化」だと考えています。

社内外でもそのように説明していますが「そもそも“約束”は言語による取り決めを指すのだから意味の重複では?」「言語化の次に実施する視覚化や発信のフローも大切なプロセスなのでは?」という指摘があるかもしれません。
しかし、先述したように「ブランディング=ロゴやマークの見た目を整えること、個性的でカッコいいデザインをすること」という局所的な“ワーク”の文脈で語る人が今なお多い界隈において、「自分達は視覚化の前に言語で整理することを大切にしている」「それをせずにデザイン“プロジェクト”は成立しないのだ!」という意味合いを強調するために積極的に使用しています。

とは言うもののブランディングはどうしても長期間のプロジェクトになりがちで、概念的な内容を話し合う時間もそれなりに長くなります。関係者が困惑しないよう適宜ラフスケッチなどで視座と意識をすり合わせつつ進めることが多いのですが、この進め方はクリエイター集団であるデザインプロダクションの持ち味だと感じます。

ほぼあらゆるブランディング業務は、最終的にはパッケージデザイン、ロゴデザイン、ウェブデザインなど視覚的なアイデンティティを構築することが求められます。視覚的な要素をつくることを得意としている我々デザインプロダクションにとって、プロジェクトの早い段階から最終的な成果物を念頭に置きポジティブな議論を生む方法はむしろ得意とするスタイルで、今後も積極的に取り入れていきたいと考えています。

後編ではデザインプロダクション流ブランディングの実際の進め方の詳細をお話したいと思います。

「デザインプロダクション流のブランディング・後編」 へ続く